第1702話 闘争の声(4)
影を出るとそこは開けた土地だった。剥き出しの地面には草1つ生えていない。
「っ、空が・・・・・・」
影人は空の色が他とは違う事に気づいた。空は朝でも昼でも、夕方でも夜でもない紫色だった。その色は不吉を連想させた。
「ヘキゼメリ一帯の空は常にこの色だ。結界の影響でこの辺りは魔の力が濃いからな。それと、後ろを見てみろ。あれが結界だ」
シスがチラリと後方を見る。影人たちもそれに続き後方に顔を向ける。すると、そこには薄い巨大な闇色の膜のようなものがあった。その中心地には祠と思わしき物がぼんやりとだが見えた。恐らく、あそこがアオンゼウの体が封印されている場所であり、白麗が言っていたような、霊地の脆い場所だろう。
「なるほど。確かに、あの結界は私でも破れそうにないわね。これほどの結界は初めて見たわ」
「ふん、当然だ。それよりも・・・・・・来たようだな」
シェルディアの呟きにそう反応したシスが正面を見据える。すると、ザッザッと何者たちかが地面を踏み鳴らす音が聞こえて来た。
「・・・・・・」
やがて現れたのは鎧を纏い武装した骸骨たちだった。そして、その先頭には鎧纏う骸骨の馬に乗った、黒い鎧纏う骸骨がいた。他の骸骨たちは骨の色が白だったが、その骸骨の骨の色は纏う鎧と同じく黒だった。
「――ほう。まさか最初に会うのが貴様だとはな、真祖よ。意外である」
明らかに他の骸骨たちとは違う黒い骸骨は、シスの姿を見るとそんな言葉を発した。昏い両の眼窩に浮かぶ赤い光を向けながら。
「意外か。その言葉そっくり返すぞ『禍の冥王』よ。俺様もお前とここで会うとは思っていなかった。この禁じられた約定の地でな」
「ふっ、相変わらず厭味たらしい奴よ」
古き者――『禍の冥王』トュウリクスがニイと闇覗く口を開ける。どうやら、トュウリクスは以前影人が追い払った骸骨と同じ種族らしいが、意思があの骸骨とは違いしっかりしている。影人はそこにトュウリクスの特別性を見た気がした。
「久しぶりね。トュウリクス」
「っ・・・・・・これはこれは。真祖シェルディアではないか。いったい幾千年振りだ。噂では、刺激を求めまだ見ぬ世界へと旅立ったと聞いたが・・・・・・お主の姿は全く変わらんな」
「ふふっ、それはお互い様でしょ」
トュウリクスが心底驚いた声音でそう呟き、シェルディアはクスリと笑った。
「『禍の冥王』よ。貴様に問う。なぜこの地に進軍してきた。答えによっては・・・・・・分かっているな?」
「分かっているとも。この地は我らが約定を交わした禁足地。ゆえに長き時に渡り、我らはこの地に誰も近付かず近づかせなかったのだ」
「ならば、なぜだ?」
再度シスが問いかける。すると、トュウリクスはこう答えた。
「情報が入ったのだ。古き者の内の誰かが、彼の魔機神の器を狙っていると。ならば、その前にこの我が頂こうと思ってな」




