第1701話 闘争の声(3)
「どういう事だ? ヘキゼメリには誰も干渉しないという約定がある。他の誰でもない、そやつら古き者たちと俺様とシエラが交わした約定だ。約定は約1500年間今日に至るまで守られていた。それをなぜ今更・・・・・・」
シスが険しい顔でそう呟く。その呟きを聞いた影人は、少し考えた結果にポツリとこんな言葉を漏らした。
「・・・・・・もしかしたら、フェルフィズが絡んでるかもしれねえな」
「フェルフィズ・・・・・・お前らが追ってきたという異世界の神か?」
「ああ。どうやってこの事態を引き起こしたのかは分からねえが、タイミングが良すぎる」
「そうね。謀略に長けた彼の忌神ならばあり得るわね。多分だけど、古き者たちを利用して争いを起こさせ、その間にヘキゼメリを崩すつもりじゃないかしら」
影人の推測にシェルディアが同意する。だが、シスはその顔に疑問の色を浮かべる。
「どうやってヘキゼメリを崩すつもりだ? あそこには古き者たち全員の力を複合させた結界が張ってある。そのフェルフィズとやらがどれだけの力を持っているかは知らんが、あの結界を崩す事は不可能に近いぞ。少なくとも、俺様でもあの結界だけは破壊できん。だからこそ、お前たちもこの城に留まっていたのだろう」
「ああ。だが・・・・・・フェルフィズが動いたとなると、結界をどうにか出来る手段はあると見るべきだ。そして多分、その手段は全てを殺す大鎌・・・・・・『フェルフィズの大鎌』だ。ああくそっ、そうだ。確かにあれなら・・・・・・!」
生物にかかわらず全てを殺す大鎌。『終焉』と同じ力を持つ大鎌。それは力であり「殺す」という概念。その力を見誤っていたわけではない。だが、シスでも壊せぬという言葉で、影人は「フェルフィズの大鎌」の在り様を失念してしまっていた。
「とにかく、事態はマズいぜ。今すぐに俺たちもヘキゼメリに行かねえと。シス、ヘキゼメリまで俺たちを連れて行ってくれ。お前の転移ならすぐに行けるんだろ」
影人が焦ったようにシスに言葉を飛ばす。影人たちがこの城に留まっていたもう1つの理由がこれだ。1度ヘキゼメリに行った事のあるシスならば、ヘキゼメリで何か問題が起きても転移が出来る。実質、ヘキゼメリまでノータイムだ。
「ああ、だが気に食わんな。俺様を足代わりに使うというのは」
「今はそんな事言ってる場合じゃねえんだよ。頼むシス、俺に出来る範囲でなら礼は何だってする。だから・・・・・・!」
「そうよ。こんな時くらい素直に首を縦に振りなさい。この問題はあなた達やこの世界に関わるのだから」
「うるさいぞシェルディア。それくらい俺様も理解している。だが、ふむ・・・・・・影人、貴様の言葉はいくらか魅力的だ。いいだろう、その頼み受けてやる。その代わり、ちゃんと礼はしてもらうぞ。影人」
「ああ」
ニヤリと笑ったシスに影人が頷いた。
「ハジェール、ゼノとフェリートを呼んで来てちょうだい。キトナは危険だからここで待たせるわ。その説明もお願い」
「かしこまりました」
シェルディアの命令を受けたハジェールが影に沈む。そして、シェルディアはスッと冷たい瞳でシスを見つめた。
「それとシス。影人に無茶な要求をしない事ね。もししたら、私があなたの相手をするから」
「ふん、すっかり保護者ヅラだなシェルディア。やはり、お前もよほど影人が気に入っているようだ。安心しろ。そんな要求をするつもりはない」
「どうだか・・・・・・」
シェルディアが信用ならないといった顔を浮かべると、ドアがノックされた。そして、ハジェールに連れられゼノとフェリートが部屋に入ってきた。
「どうしたのシェルディア。俺たちに何か用?」
「雰囲気から察するに・・・・・・何かあったようですね」
「ええ。手短に話すわね」
シェルディアがゼノとフェリートにヘキゼメリで動きがあった事を伝える。シェルディアの話を聞いた2人はその目を真剣なものに変えた。
「・・・・・・それは怪しいね」
「ええ。十中八九フェルフィズが絡んでいるでしょうね」
「私たちも同じ考えよ。だから、今からシスの転移でヘキゼメリに行くわ。急だけど、準備はいいかしら?」
シェルディアがゼノとフェリートにそう問う。ゼノとフェリートは「いいよ」「私も大丈夫です」とコクリと頷いた。
「なら行きましょう。シス、転移を」
「分かっている。俺様に命令するな。ハジェール、しばらく留守番は任せたぞ」
「はい、シス様」
「お前たち、俺様の近くに来い」
シスにそう言われた影人たちがシスの周囲に集まる。すると、シスの影が広がり影人たちを呑み込んだ。次の瞬間、シスと影人たちは部屋の中から消えた。




