第1700話 闘争の声(2)
「あら、あなたもいたのシス。どうしましょう。今まで気分が良かったのに、あなたの顔を見たら気分が悪くなってきたわ」
「ふん、お前の気分など知るか。こちらこそお前を見たら不愉快な気分になってきたぞ」
部屋に入って来たシェルディアがシスを見て顔を顰める。シスもシェルディアと似たような顔を浮かべた。
「それより、なぜあなたが影人の部屋にいるの。あなた、他人には興味ないタイプでしょ。というか、迷惑よ。影人が嫌がっているのが分からないの?」
「俺様がどこにいようとも俺様の勝手だろう。俺様はこいつが、影人が気に入った。ゆえに、こいつと戯れているのだ。お前こそ邪魔だ。さっさと出ていけ」
「あなたが影人を気に入った? 自分以外に興味がなくて天上天下唯我独尊を地で行くあなたが? 冗談でしょ」
シスの言葉を聞いたシェルディアが不審そうな顔になる。シスの事をよく知るシェルディアからしてみれば、シスの言葉は容易には信じられなかった。
「俺様は冗談で他者を気に入ったなどとは言わん。そもそも、俺様がこいつの事を名前で呼んでいる事でそれは分かるだろう」
「・・・・・・そういえばそうね。確かに、あなたが他者を名前で呼ぶのは極めて稀だったわね。はあ、影人あなたとんでもない奴に気に入られたわね」
「はっ、嬉しくて涙が出てくるよ」
シェルディアに哀れみの目を向けられた影人は、やれやれといった様子でそう言った。
「さっさと出ていけ、シェルディア。俺様はこれから影人に面白い話をしてもらうのだ」
「面白い話? あら、それは是非私も聞きたいわね。せっかくだから、私もご一緒させてもらうわ」
シェルディアは興味を引かれたらしく、影人の横にあるイスに腰を下ろした。
「ちっ、つまらん奴が一緒になったな」
「嫌味な奴ね。死ねばいいのに。さあ影人。いったいどんな話をしてくれるの?」
「そうだ。さっさと始めろ」
シェルディアとシスがそう促す。2人にそう促された影人は困ったように頭を掻いた。
「真祖2人に面白い話ね。普通にプレッシャーだぜ・・・・・・そうだな。じゃあ、こんな話はどうだ」
影人はそう前置きすると話を始めようとした。
「俺が中学生2年の時の・・・・・・今から3〜4年前の話だ。俺が道を歩いていると――」
「――失礼いたします」
コンコンと再びノックの音が響いた。声の主はどうやらハジェールのようだった。
「ハジェールか。何用だ?」
その声にシスが答える。ハジェールはまるでシスが影人の部屋に居る事を知っていたように、何の戸惑いもなくドアを開け影人たちに頭を下げて来た。
「シス様、ご報告したい事が。諜報係から封印地ヘキゼメリに向けて、『禍の冥王』と『獄炎の魔王』が兵を率いて進軍しているという情報が入りました。それに呼応してか、『真弓の賢王』と『精霊王』、更には『赫雷の竜王』までも動き始めたようです」
「・・・・・・何?」
「っ・・・・・・」
「・・・・・・何か由々しき事態が起こっているようね」
ハジェールの報告を聞いたシスが表情を硬くする。ヘキゼメリ、その言葉を聞いた影人とシェルディアもシスと似たような顔色になった。




