第170話 魔女の力(2)
暁理と同じく、守護者の身体能力をフルに使ったジャンプで、キベリアのいる高度までやって来たのだ。
「うざったいわね・・・・・・・・!」
キベリアが面倒くさそうに顔を歪め、箒を動かして光司の一撃を回避した。キベリアのように宙に留まる手段のない光司は、すぐさま重力に引かれ地上へと戻っていくが、射線が開けたことによって後ろに控えていた風音が式札から光線を発射した。
「第4式札から第8式札、光の矢と化す」
5つの光線が式札から放たれ、それぞれの軌道を描きキベリアへと殺到する。その光線は1条1条が強力な浄化の力を宿したものだ。
「9の闇、光を飲み込む暗穴と変化する」
それをくらってはいけないと分かっていたキベリアは、右手を前方に突きだした。するとキベリアの右手を基点として闇の穴が出現した。風音の放った5つの光線は全てその穴へと吸い込まれ、消えてしまった。
「・・・・・・・・はあ。あなたやっぱり面倒ね。というか、少し私の力と似てるし・・・・・・・・」
「褒め言葉として受け取っておきます。ですが、あなたと似ているというのは御免被りたいですね」
「全く、揃いも揃って生意気ね・・・・・!」
苛立ったように風音を見つめたキベリアは、集中するように大きく息を吐いた。
「・・・・・・・・あなた達程度にあまり力は使いたくなかったけど、仕方ないわよね。だって殺したくなっちゃったし」
キベリアが赤い髪を揺らし、凍えるような笑みを浮かべた。その笑みには隠すことのない残忍さが見て取れる。
「まずはあなたね」
「おいおい僕かよ。さっきのババア発言でヘイト集めちゃったかな? ねえ、オバさん?」
「正解よ。まだまだガキ如きの小娘には大人げないけど、さっさと死んでちょうだい」
キベリアが表情筋だけで笑いながら、右手を突き出した。その向きは暁理に向けられている。
「我は魔なる法を行使せし者。魔女の名を以って第10の力を解放す」
キベリアの詠唱と同時にキベリアの右手を中心に幾何学模様の魔法陣が展開していく。
「・・・・・・なんかヤバそうだなぁ。まあでも、どんな攻撃も当たらなきゃいいだけだしね。オバさん、僕の姿が捉えられるかい?」
暁理は強気にそう言ってみせると、超速的な速度で以ってその場から姿を消した。
周囲の木々に時折影が見えた。おそらく木々を蹴って超高速で移動しているのだろう。
「なるほど、たしかにその理論は正しいわね」
キベリアは右手を前方に構えたまま、魔法陣を展開し続ける。何ぶんこの力は集中することを余儀なくされるため、今からこの力をキャンセルすることは出来ないのだ。
だが、元々キベリアはこの力をキャンセルするつもりはなかった。なぜなら、もうあの光導姫の死は確定したようなものだからだ。
(いや、場合によっては全員勝手に死ぬかしらね)
頭にある絵を描きながら、キベリアは内心くすりと笑う。
「まだだっ! まだ僕は――!」
光司が再び跳躍しキベリアに剣を突き立てようとしてくる。光司が動いた事により、風音も周囲を高速で移動していた暁理もそれと同時に仕掛けた。
「第1式札から第3式札形態解除。よって第1式札から第8式札、光の矢を放つ!」
風音が光の盾を解除して、8条の光線を放物線を描くように、キベリアへと放った。




