第1699話 闘争の声(1)
「おい、影人。退屈だから何か面白い話でもしろ」
影人たちが裏世界に来てから10日目。血影の国、不夜の祖城のとある一室。そのドアを開けながら、シスはそう言った。
「は、はあ? 急に来て、いきなりなんだよおい」
適当に部屋のベッドで転がっていた影人は、起き上がるとシスにそう言葉を返した。
「いきなりではない。この城は俺様の城だ。好きな時にどこに入ろうと俺様の勝手だ」
「知るかよ。俺からすりゃいきなり以外の何者でもねえよ・・・・・・」
「お前の解釈など知らん。ほら、さっさと何か面白い話をしろ。タダでこの城に泊めてやっているんだ。それくらいはやれ」
「そりゃそうだが・・・・・・はあー、何だかな」
部屋のイスにドサっと腰掛けたシスに影人はため息を吐く。ここまであからさまな傲慢な態度は中々慣れないものだ。
「つーか、あんた何でこんなに俺に絡んで来るんだよ。ここに滞在してから、やたらと俺に絡んでくるが・・・・・・理由はなんだ」
シスの対面のイスに移動した影人は前髪の下の目でシスを見つめた。影人たちは最初1日だけこの国に滞在するつもりだったのだが、どういうわけかシスは2日目以降の滞在を許してくれた。それから今日に至るまで影人たちはこの国に滞在しているのだが、シスは必ず1日に2回以上は影人に話しかけて来た。その事が影人には不思議だった。
「絡むだと? 違うな。この俺様がわざわざお前と戯れてやっているのだ。普通ならば泣いて感謝するところだ。ほら、さっさと感涙に咽べ」
「あのなあ、それを世間では絡むって言うんだよ。後、何で頼んでもないのに絡まれて俺が泣かなきゃならねえんだよ・・・・・・」
「決まっている。それが俺様という存在だからだ」
「・・・・・・ダメだ。まともにツッコむのがアホらしくなってきた」
影人が思わず頭を抱える。そんな影人を見たシスは「? よく分からん奴だな」と首を傾げた。
「まあ、俺様がお前と戯れてやっているのは、端的に言えばお前が気に入ったからだ。光栄に思えよ。この俺様が誰かを気にいるなど滅多にない事だ。いや、皆無と言っていい。同族でも俺はそんな事は思わんからな」
シスはなぜかドヤ顔でその理由を話した。その言葉を聞いた影人は思わず「はあ?」と声を漏らした。
「何でだ。意味が分からん。今のところ、俺とあんたは1回戦っただけの関係だぞ。しかも、あんた普通に俺を殺そうとしてただろ。どこに気にいる要素があるんだよ」
「ふん、なぜ俺様がお前に一々説明してやらねばならんのだ。俺様が気に入ったといったら気に入ったのだ。それが全てだ」
「さいですか・・・・・・分かったよ。んじゃ、いいよ」
「ほう、愚図にしては物分かりがいい。なら、さっさと面白い話をしろ」
「物分かりがいいんじゃなくて、ただ諦めただけなんだがな・・・・・・で、面白い話ね。うーん、何かあったか・・・・・・」
影人が仕方なく自分の記憶を漁っている時だった。突然、コンコンとドアからノックの音が響いた。
「影人、いるかしら?」
「ん、嬢ちゃんか。ああ、いるぜ」
影人が返事をするとドアが開けられ、シェルディアが姿を現した。




