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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
1697/2051

第1697話 魔機神アオンゼウ(3)

「た、大陸を切り離したですか・・・・・・先ほどから私の理解を超えるようなお話ばかりですね・・・・・・」

「ふん、まあ表世界の獣人族の娘にはそうだろうな。今の表世界の者はそもそも、裏世界があるとも知らんだろう」

 シスがダークレッドの瞳でキトナを見つめる。そして、シスはその瞳を影人たち全体に向けた。

「で、お前たちはヘキゼメリに行く気か?」

「ええ。ここには話を聞きに寄っただけだから」

 シェルディアは頷くとソファから立ち上がった。シェルディアに続くように、影人たちも順次に腰を上げた。

「じゃあねシス。あなたにこう言うのは嫌だけど、話を聞かせてくれて助かったわ。ありがとう」

「ふん。いらん前置きをしなければ礼も言えんのか。もっと感謝しろ。この俺様がわざわざ時間を割いてやったのだからな」

「はあ、あなた本当に酷い性格をしているわね。普通に殺したいわ」

「奇遇だな。俺様もだ」

 シェルディアが冷たい目をシスに向ける。シスも同じ目をシェルディアに向けた。

「行きましょうあなた達。ハジェール、どこかで控えているのでしょう。私たちを城の外まで案内なさい」

 シェルディアが虚空に向かってそう呼びかける。すると部屋のドア、その向こうからハジェールの声が聞こえてきた。

「御意。ハジェールはここに」

「声を掛けて2秒以内。流石ね」

 シェルディアが感心したように小さく笑う。シェルディアがシスに背を向けドアへの一歩を刻む。シェルディアに続く前に、影人たちはシスに別れの挨拶をしようとした。だがその前に、シスはシェルディアにこう言葉をかけた。

「ああ、言い忘れていたがヘキゼメリには何もないぞ。あそこにはアオンゼウの器が封じられた祠があるだけだ。加えて、ヘキゼメリの土地には何者をも拒む結界が張られている。お前でもあの結界は破れんぞ」

「・・・・・・はあー、そういう大事な事は先に言ってくれるかしら」

「ふっ、俺様が話してやろうとする前にお前が席を立ったのだ。非は全てお前にある」

「・・・・・・本当に嫌な奴」

 シェルディアはギロリとシスを睨んだ。対して、シスは嘲笑を浮かべた。シェルディアは苛立ちを抑え切れぬようにそう吐き捨てた。

「よい顔だ。ふむ、頗る気分が良くなってきた。お前たち、今日はこの城に泊まっていけ。これは特別な事だ。せいぜい、寛容な俺様に対して感謝感激する事だな」

「っ、いいのか・・・・・・?」

「よいと言っている。そのフェルフィズとやらが裏世界に来ていたとしても、どうせ1日で結界を破る事は不可能だ。ならば、いずれ来たるべき時に備えゆっくりと体を休めるべきだ。そして、この不夜の祖城はうってつけの場所だ」

 思わずそう聞き返した影人に、シスは鷹揚に頷いた。

「そういう事だハジェール。こやつらに部屋を用意してやれ」

「ちょっと、勝手に決めないでくれる?」

 ハジェールの命令を書き換えたシスにシェルディアがムッとした顔で抗議する。

「何だ。不満ならばお前1人だけここを出て行くか? 俺様は別に構わんぞ」

「そうは言ってないでしょ。あなたの態度が気に食わないと言っているのよ。ハジェール、私たちを部屋に案内なさい」

「はっ。では、ご案内いたします」

 シェルディアはそれだけ言うと、ドアを開けて廊下にいたハジェールにそう命じた。明らかにシスと同じ命令だが、シスの後に言った事に意味がある。

「ほら、行くわよあなた達」

「あ、ああ」

 シェルディアがまだ部屋の中にいた影人たちにそう言ってくる。いつも泰然としているシェルディアが、これだけ明確に苛立っている様はかなり珍しいので、影人は少し驚いた。

「・・・・・・シェルディア、随分苛立ってるね」

「ええ。よほど、あの方とは相性が良くないようですね」

 ゼノとフェリートもポツリとした声で言葉を交わす。そして、影人たちはハジェールにそれぞれの部屋へと案内された。

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