第1693話 最後の真祖(4)
(そして、俺の勝利条件はシスに認めてもらう事。最低でも真祖化は使わせないとな。だが、場合によっちゃサププランも・・・・・・ったく、中々にキツイぜ)
力を認めさせるという都合上、『影闇の城』は当然ながら、『終焉』も使う事が出来ない。『終焉』はよしんば使えたとしても、最後に意識を刈り取るために仮死にさせるくらいだ。
「くくっ、はははははははははっ! この俺様が一撃を喰らうなどいつぶりか。いい。いいぞ、お前。久方ぶりに楽しめそうだ」
飛ばされたシスは何事もなかったかのように立ち上がると、大きな笑い声を上げた。普通ならば骨が砕けていて笑えはしないが、シスは真祖。超回復の力でダメージは既に癒えていた。
「・・・・・・だったら、さっさと真祖化を使って俺を認めろ」
「冗談を言うな。この程度で真祖化は使わん。お前はまだ、面白いという段階なのだからな」
シスは影人にそう言葉を返すと、右手の爪を伸ばした。そして、その爪で自身の左手首を掻き切った。
「では、次は俺様の番だ。すぐに死んでくれるなよ」
シスの左手首から赤い血が噴き出す。血はやがて赤い槍に変わる。シスはその槍を左手で握ると、神速の速度で影人に接近し、槍を振るって来た。
「っ、『世界端現』。来い、影闇の鎖!」
真祖の速度に慣れていた影人は、何とかギリギリの所で槍を回避した。そして、自身の周囲に「影闇の鎖」を呼び出した。シスの二撃目を、影人は鎖に受け止めさせた。瞬間、凄まじい金属音と火花が散った。
「俺様の一撃を受け止めるか。普通の鎖ではないな」
「一々、上から目線が鬱陶しいんだよ・・・・・・!」
「はっ、貴様の思いなど知らんわ」
シスは凄まじい槍の連撃を影人に放って来た。影人はその連撃を影闇の鎖で受け止める。真祖の速度は肉体を強化したスプリガンをも上回る。一応、シェルディアとの修行やこれまでの戦いの経験値で、影人はギリギリで反応する事は出来るが、それでも安定はしない。そのため、影人は影闇の鎖を半自動制御に設定し防御に使っていた。
「まだまだ加速するぞ。着いて来いよ」
シスはそう言うと、右手で自身の首を盛大に掻き切った。途端、鮮血が空間に奔る。血は即座に流体状の槍と化し、影人を襲う。その一撃を影闇の鎖が受け止める。
「まだまだ」
シスの影が伸び、影人の後方を取る。すると、途端にシスの姿が消えた。
「っ!?」
影人が一瞬驚いた顔になると、後方から固形の血の槍が飛んで来た。その一撃を、影闇の鎖は自動的に受け止める。
「どうした? 鎖がなければ死んでいたぞ」
「死んでないからいいだろ」
「ふっ、確かにな」
シスが再び影を伸ばす。影は今度は1方向に伸びるのではなく、影人を囲むように8本に広がった。
「その鎖、いつまで保つか試してやる」
シスが再び消える。すると、シスは今度は影人の右に出現し槍と流体状の槍を振るってきた。影闇の鎖がそれを防ぐ。再度シスが消える。今度は影人の斜め後方に現れ、同じ攻撃をしてくる。鎖がそれを防ぐ。シスは8方向に伸びた影を移動し、尋常ならざる槍の嵐を影人に浴びせて来た。
「ふっ、防御してるだけでは俺様には力を示せんぞ」
「っ、分かってるよ・・・・・・! 本当に一々うるせえな・・・・・・!」
影人は少し苛立ったような顔になる。シスの攻撃は凄まじい波状攻撃で、この場から動く事は難しい。加えて、このような攻撃はシェルディアとの戦いでは経験していなかったので、どう対応すればいいか咄嗟に思いつきもしなかった。
「・・・・・・相変わらずねシス。流石は、最も力の使い方が上手い吸血鬼ね」
その光景を見ていたシェルディアがポツリと言葉を漏らす。シスは真祖、いや吸血鬼の中でもその能力を使うのが1番巧みだった。少なくとも、シェルディアはシスほど自在に血と影を操る事は出来ない。シェルディアがシスに勝っている点があるとすれば、『世界』を使える事くらいだろう。まあ、シェルディアがいない間に、シスが『世界』を会得していれば、その点もなくなるが。
「それでも・・・・・・あなたなら大丈夫なはずよ影人。幾度も死戦を潜ったあなたなら」
だが、シェルディアは笑みを浮かべた。その笑みは全幅の信頼を寄せる笑みだった。




