第1692話 最後の真祖(3)
「孤独を苦に感じてないところはまあ共感できるが・・・・・・はっ、強者ゆえの孤独か。そこはまだまだレベルが低いな。少なくとも、孤独に関してはあんたは俺よりも下だ。いいか、真の孤独者ってのはな・・・・・・」
影人はフッといつもの、痛い、気色悪い、前髪死ね、の三拍子の前髪スマイルを浮かべると、謎に格好をつけたポーズでビシッとシスに右の人差し指を突きつけた。
「自ら進んで孤独になる者だ。孤独を愛し孤独に愛される。それが真の孤独者だ。まあ、あんたが俺と同じステージに登ってくるのには、まだまだ時間がかかるだろうが・・・・・・せいぜい覚えておくんだな」
空前絶後のアホバカ前髪が決まったといった風にドヤ顔を浮かべる。冗談ならまだしも、本気で言っているからタチが悪い。本当に悪い。
「ふふっ、本当にあの子はいつでも変わらないわね」
「変わらないというか、この状況で本気でああ言っているのですから、頭のネジが飛んでますよ・・・・・・」
シェルディアはクスリと笑い、フェリートは呆れ切った顔を浮かべる。ゼノとキトナはすっかりそんな影人に慣れたのか、言葉は発さなかった。
「? 何だ? 俺様に説教をしているのか? よく分からんが不快だ」
「嫌な奴が不快に感じてるのは、こっちからすれば快楽だぜ。せっかくだ。もっと不快にしてやるよ」
影人はシスの対面に向かって歩いた。そして、シスから少し離れた所で立ち止まった。
「一応、戦う都合上あんたには今から俺のもう1つの姿を見せるが・・・・・・普段はそんなにポンポンと見せないんだ。特に変身の瞬間はな。何人かに正体はバレたが、もう1人の俺は正体不明の男で通ってるんでな」
影人はそう前置きすると、ポケットからペンデュラムを取り出した。そして、言葉を唱えた。
「変身」
ペンデュラムの黒い宝石が黒い光を発する。次の瞬間、影人の姿は黒衣の怪人スプリガンへと変化した。スプリガンに変身し素顔が露わになった影人は、変化した金の瞳をシスに向けた。
「・・・・・・名乗っておくぜ。こっちの俺の名前はスプリガンだ」
「ほう・・・・・・面白い。先ほどの醜い姿とは別物だ。とても同一の者とは思えんな」
スプリガンを見たシスが笑みを浮かべる。影人の戦いの準備が整った事を感じたシスは、両手を広げた。
「来い。先手は譲ってやる」
「・・・・・・真祖化はしないのか」
「ふむ、真祖の秘奥たるそれを知っているのか。意外だな。だが、真祖化は使わん。あの俺様は俺様が認めた者にしか見せんと決めている」
「だったら・・・・・・無理やりにでもそいつを使わせてやるよ・・・・・・!」
影人は自身が使える全ての身体能力を強化する力を施し、シスとの距離を詰めた。そして、影人は右の蹴りを放った。
「速さは中々だな」
シスは余裕たっぷりに影人の蹴りを左腕で受け止めた。ガンッと鈍い音が戦技の間に響いた。
「そして、威力も中々だ」
「そうかよ」
影人はガードされた足を戻すと、シスを囲むように闇色のナイフを複数召喚した。召喚されたナイフは自動的にシスに襲いかかった。
「ナイフの群れか。なるほど、このような事も出来るか」
シスは召喚されたナイフを一息で全て叩き落とした。対応される事が分かっていた影人はナイフを重いヘドロのような闇に変化させ、シスの足元を固めた。影人の本命はこっちであった。
「むっ」
「・・・・・・真祖との戦いは経験値がかなりあってな。対して、あんたは俺の事を知らない。つまり、この戦いは完全に俺の方が有利って事だ」
影人は黒い鋼の柱を創造すると、その柱でシスの体を打った。柱に打たれたシスは衝撃と共に飛ばされた。
(真祖との戦いでは、不用意に斬撃や銃撃といった血を出させるような攻撃はしない。カウンターの血の攻撃が強力だからな。だから、基本は打撃でいく)
シスに一撃を入れる事に成功した影人は、自分に言い聞かせるように内心でそう呟いた。シェルディアとの地獄の修行で、影人はある種の真祖対策を会得していた。




