第1691話 最後の真祖(2)
「お前が? よりにもよって1番弱そうなお前がか。ふん、醜いだけでなく力の差も分からんとは・・・・・・愚物ここに極まれりだな。それに、言葉の使い方も知らんらしい。いよいよ以て救えぬな」
「あんたみたいな奴に丁寧な言葉使えるほど、俺は聖人じゃねえんだよ。で、どうするんだ? 戦るのか戦らないのか。ああ、それか俺みたいな奴に負けるのが怖くて出来ないか? だが、吐いた唾くらいは飲み込んでもらうぜ」
「安い挑発だな。それがお前の最後の言葉になるぞ。いいだろう。その挑発乗ってやる。瞬く間もなく殺してやろう」
「上等だ。やってみやがれ」
シスは冷たい怒りを宿した目を影人に向けた。対して、影人は強気な笑みをシスに向けた。
「あらあら、勝手に話が決まってしまったわね。ふふっ、でもあなたらしいというか何というか」
「人を見た目で判断するなとは言いますが・・・・・・あなたは本当に見た目と中身が乖離していますね」
「うん、ちゃんと男の子だ。でも、俺もムカついたからちょっと戦いたかったな」
「影人さん、格好いいです!」
影人とシスのやり取りを聞いていたシェルディア、フェリート、ゼノ、キトナが影人に対しそんな感想を述べる。影人はキトナの格好いいという言葉に「べ、別に俺は普通の事を言っただけだ」と少し照れたような様子になった。
「シス。影人があなたと戦う前に1つ確認させてもらうわ。影人があなたに力を示せば、他の子たちも認めてくれるのね?」
「本当にそいつにそれだけの力があるのならな。特例として認めてやる。ただし、俺様がそいつを殺しても文句は言うなよシェルディア。そいつはこの俺様を挑発したのだからな。慈悲は与えん」
「文句は言うわよ。さっきの言葉忘れたの。でも、分かったと言っておくわ。私、影人を信頼しているし。ああ、あと一応教えておいてあげる。あなたが見下し侮っている影人は強いわよ。最低でも、私やあなたと同じくらいには」
シェルディアは意地の悪い顔でシスにそう言った。その言葉を受けたシスは少し興味を覚えたような表情になる。
「ふむ・・・・・・その言葉が嘘ではないならば、それは何とも面白そうだな。せいぜい、この俺様を楽しませてみせろ。影人とやらよ」
「はっ、楽しむ余裕があればな。真祖サマ」
こうして、影人と最後の真祖シスとの戦いが決まった。シスは玉座から立ち上がり、階段を降りてきた。シスの身長は影人より少し高かった。
「着いてこい。戦いの場を用意してやる」
シスはそう言うと、真祖の間の扉を開け外に出た。影人たちはシスの後に続いた。
シスに案内されて着いたのは、城の上階にある広大極まりない空間だった。壁や床の色は薄い黒で、確かにここならば戦っても問題はないと思えた。
「ここは戦技の間。吸血鬼たちが自身の戦闘能力を上げる修練などに使う場所だ。この城は不壊石を材料として造られている。当然、この部屋もな。ゆえに、存分に戦える」
シスが影人たちにこの部屋の説明をする。そして、シスは部屋の中心部に向かって歩き始めた。
「さて、では戦いを始めるか。1対1で戦うなど幾百年ぶりか・・・・・・ふっ、来い愚者よ。シェルディアが言っていたように、お前が俺様と同等の強者であるならば、それを示してみせろ」
「・・・・・・嬢ちゃんが言ってた通り、本当に一々偉そうだなあんた。友達いねえだろ」
「真の強者とは孤独な者だ。ましてや、それが絶対最強の真祖たる俺様ともなるとな。友など不要よ」
シスがフッと笑いそう言い放つ。どこぞの前髪とは違い、圧倒的イケメンかつ真祖であるシスが言うと、痛い気持ち悪いというよりも格好良く聞こえるのだから不思議である。




