第1690話 最後の真祖(1)
「シェルディアよ、お前が戻って来た理由はどうせろくでもないものだろう。だが、お前は吸血鬼。俺様と同じ真祖。この血影の国に、この城に入る資格はある。それは認めてやる。だが・・・・・・」
シスは視線をシェルディア以外の者、つまり吸血鬼ではない影人たちに向けると、その顔を不快そうに歪めた。
「お前の周りにいる者たちは別だ。そやつらは吸血鬼ではない。この国は吸血鬼以外の存在を認めぬ。一刻も早く出ていけ。特に、そこの前髪で顔の上半分を支配されているお前。なんだお前は。あまりにも醜い。醜い者が俺様の視界に入るな。不快極まりない」
「え、そ、それって俺の事か・・・・・・?」
「お前以外に誰がいるというのだ」
シスにそう言われた影人はショックを受けた顔でそう聞き返す。流石の前髪野郎も正面から醜いと言われたのは初めてだからだ。シスは影人にそう言葉を吐き捨てた。
「ふん。だが、見た目はゲテモノでも血は美味いかもしれんからな。喜べ醜き者よ。お前に罰と褒美を与える。罰は死を。褒美は俺様の栄養となれる事だ」
「っ・・・・・・」
シスが酷薄な笑みを浮かべる。本能的にシスの言葉が冗談ではないと悟った影人は、思わず体を引いた。
「・・・・・・シス。あなた・・・・・・影人に手を出したら殺すわよ」
シスの言葉を聞いたシェルディアは内に激情を秘めた言葉を放った。表にこそ出していないが、シェルディアは間違いなく激怒していた。
「ほう・・・・・・意外だな。お前が本気で怒るなど。よほどそいつが大事と見える」
「うるさいわよ。とにかく、ここにいる者たちは全て私の友人よ。私は真祖。あなたと同じ吸血鬼を統べる者。国や城がどうのなんて知らないし関係ないわ。真祖の友人を蔑ろにすればそれこそ吸血鬼の恥よ。せいぜい丁重に扱いなさい」
「何が統べる者だ。統べる者とは何かに対し責任を負い続ける者の事を言うのだ。自身の享楽だけを求め去ったお前を統べる者とは言わん。お前はただ真祖という称号を持っただけの吸血鬼に過ぎん」
「あら、王様気取り? 私とシエラがいなくなって調子に乗ったのかしら。私は別にそう言う意味で言ったのではないのだけれど」
「詭弁だな。自身が特別だという自覚をお前は持っているのだから。どうやら、しばらく会わない間に頭が悪くなったらしい」
シスとシェルディアが互いにキツイ言葉を送り合う。真祖同士の舌戦だ。影人たちは口を挟む事も出来ず、ただ2人の会話を聞く事しか出来なかった。
「その言葉、そっくりそのまま返すわ。はあー、あなた相変わらず嫌な奴だから、ちっとも会話が進まないわ。そろそろ普通に話がしたいのだけれど」
「俺様と話がしたいのなら、それに相応しい態度を示せ。話はそいつらを国の外に出してからだ」
シェルディアとシスの話は互いに平行線だった。それを感じた影人は、シェルディアに対しこう言葉をかけた。
「な、なあ嬢ちゃん。このままじゃ埒が明かないだろうし、俺たち外に出ようか? 別に、ヘキゼメリに封印されているモノの正体は嬢ちゃんが聞けばいいだけだし・・・・・・」
「ダメよ。あなた達に非は何もないもの。それに、ここでシスの言いなりになるのは癪に障るわ」
シェルディアが首を横に振る。そして、シェルディアはシスに対しこう言った。
「シス。あなたにこう聞くのも苛立つけど、どうすればこの子たちを認めてくれるの?」
「簡単だ。力を示せばいい。この国に入れるだけの実力があるか、俺様と話す資格があるかをな。まあ、真祖と同等の力を持つ者など絶無であるし、そいつらがそれだけの力を持っているとも思えんがな」
シスがフッとバカにするように笑う。その顔を見た影人の中に苛立ちが奔った。
「・・・・・・言ってくれるじゃねえか真祖サマ。要は、あんたをぶっ倒せばいいって事だよな。いいぜ、その喧嘩俺が買った。そこから降りて来て俺と戦えよ」
シスの言葉に答えるように、影人は前髪の下の両目でシスを睨みつけた。




