第169話 魔女の力(1)
「ふふっ。さあさあ、行きなさい。1の炎、2の水、3の雷」
キベリアがニヤニヤとした笑みを浮かべ、言葉を口ずさむ。するとキベリアの言葉に反応したように、キベリアの周囲から炎で出来た蛇、水で出来た蛇、雷で出来た蛇が突如として出現し、3人に襲い掛かった。
「――第1式札から第3式札、我らを守る光の盾と化す」
キベリアの攻撃に風音は3つの式札を使用して、光の盾を光司とアカツキ、そして自分の前に展開した。全身に攻撃性を持った大蛇たちは正面から光の盾へと激突した。
「あら残念。ならこれはどう? 1の炎、3の雷、合一し炎雷の雨へ変化する。2の水、5の毒、合一し毒水の悪魔へと変化する」
キベリアの「力ある言葉」によって、その現象が臨界する。すなわち頭上から雷を纏った炎が降り注ぎ、紫色の水で姿を形作った悪魔のようなものが地面から湧き出した。
「これはまずいね・・・・・!」
「くっ・・・・・・!」
アカツキと光司が、この攻撃にどう対応したらいいかほんの一瞬悩んでいる間にも、炎雷の雨は自分たちに降り注ごうとしていた。
「第1式札から第3式札移動。第4式札から第8式札、光の矢と化す。第9式札から第10式札、光の羽衣と化し、2人に加護を」
風音が全ての式札を使用する。1から3番の式札はまだ光の盾へと姿を変えており、それがスライドして3人の頭上へと移動した。そして5つの式札から光線が放たれ、紫色の水の悪魔へと着水した。悪魔は光線の熱量で蒸発した。
「その羽衣は自身が受ける攻撃を1度だけ無効にしてくれます。後衛は私が務めるわ」
アカツキと光司に柔らかな光の羽衣が纏われた。風音が2人に説明を行うと、2人は感謝の言葉を口にした。
「いや本当に何から何までありがとう、『巫女』。さっすが日本最強の光導姫!」
「ありがとう、近接は僕たちに任せてくれ!」
アカツキと光司は宙に浮いているキベリアに向かって駆け出した。
2人に追従する形で頭上の光の盾も移動する。そのため炎雷の雨は2人には当たらなかった。
「いくよ。――風の旅人」
アカツキの周囲に風が渦巻く。これを使うと明日には筋肉痛が確定するが甘いことは言ってられない。いま相手にしていのは最上位の闇人だ。
「しっ――!」
アカツキのスピードが跳ね上がる。アカツキは一息でキベリアとの距離を詰め、ジャンプして正面から斬りかかった。
「怖いわね。――4の氷」
だが、キベリアは全く慌てずにそう言葉を紡いだ。アカツキの壮麗な剣がキベリアの肉体に触れようとした時、突然剣とキベリアの肉体の間の空間が凍った。
ガキィィン! とアカツキの剣は宙に出現した氷に受け止められた。
「ちっ・・・・・!」
「心臓に悪いわ。傷がついたらどうしてくるの?」
「余裕かよ・・・・・・・! ババアァ!」
涼しげに嫌味な笑みを浮かべるキベリアに、暁理は苛立ったようにそう言った。フェリートとほど昔からではないが、キベリアもまた遥か昔からその存在が確認されている闇人だ。
そのためいくら見た目が若くても、人間から見ればキベリアは相当な年齢ということになる。(ただ闇人に年齢という概念はあまりない)
「あ? あなた死刑ね」
「それは無理だね。僕はまだ死ねない!」
「――はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
暁理が地上に落ちると同時に、光司が裂帛のかけ声と共に剣を振り上げた。




