第1689話 血影の国(5)
「ハジェール、取り敢えずシスに会わせてちょうだい。シスと話があるの」
「ご安心を。今シス様がいらっしゃる城まで向かっている最中でございます。恐らく、シス様もシェルディア様が帰って来た事には気づいていらっしゃいますからね」
ハジェールはそう言うと、影人たちにこう聞いてきた。
「城まではまだしばらく掛かりますが、どうされますか? 町を見たいならそのまま徒歩で。別にいいと仰るなら、私の影ですぐに城まで移動できますが」
「そうね・・・・・・町を見るのは後でも出来るし後でいいかしら。あなた達もそれでいい?」
シェルディアが影人たちに意見を求める。影人たちは全員頷いた。
「決まりね。ハジェール、お願い」
「御意。それでは皆さま、私の近くに」
影人たちがハジェールの近くに集まると、ハジェールの影が広がった。そして次の瞬間、ハジェールと影人たちは影に引き込まれた。
「着きました。ここが真祖が住まう血影の国の中心部、不夜の祖城でございます」
影人たちが影の中から出ると、そこには黒を基調とした城内の光景が広がっていた。正面には立派な大きな扉があった。
「この城の中は広大なため、今回はお手間を取らせぬためにもシス様がいらっしゃる真祖の間の前に転移しました」
ハジェールが正面の扉に手を向けながらそう言葉を述べる。つまり、あの扉の先に最後の真祖、シスがいるのだ。
「そう。助かったわハジェール。じゃあ、あなたはしばらく下がっておいてちょうだいな」
「心得ております」
ハジェールがスッと通路の端に控える。シェルディアはコツコツと扉の前まで歩いて行く。当然、影人たちもシェルディアに続く。
「一応、影人には言ったけど、あなた達にも言っておくわね。今から会うシスは本当に嫌な奴だから、気をつけておいて」
「シェルディアがそう言うレベルなんだ」
「大丈夫です。問題ありません。執事ですから」
「は、はい」
「じゃ、開けるわよ」
ゼノ、フェリート、キトナが反応を示す。そして、シェルディアは扉を開けた。
扉の先は広い空間だった。炎灯るシャンデリアが照らす洗練された豪奢な空間。どこか影人の『影闇の城』と似ている。正面には階段があり、その上に3つの玉座があった。両端の玉座は空だったが、真ん中の玉座には誰かが座っていた。
「――ふん。シエラでも戻ってきたかと思えば・・・・・・まさか、お前が戻って来るとはな」
座っていたのは影人と同年代くらいに見える少年だった。艶のあるダークレッドの髪に、同じくダークレッドの瞳。その顔はシェルディアと同じく人形のように整っている。古風なマントに身を包んだその少年は、シェルディアを、そして影人たちを睥睨した。
「一応、こう言っておいてやる。久しぶりだな、シェルディア」
「ええ、久しぶりね。相変わらずあなたは偉そうね。ねえ、シス」
シェルディアが最後の真祖――シスの名を呼ぶ。シェルディアの言葉に、シスは何を当然の事をといった顔を浮かべ、
「偉そうなのではない。実際に偉いのだ、俺様は」
そう言い切った。




