第1688話 血影の国(4)
「・・・・・・何か偉い吸血鬼っぽいな」
「だね。シェルディアとも顔見知りっぽいし」
ハジェールについてポツリと影人が感想を漏らし、ゼノも頷く。すると、シェルディアが影人たちにハジェールについて説明してくれた。
「紹介するわ。吸血鬼のハジェールよ。私より1000年くらい歳下で、真祖たちの雑用係みたいな立ち位置だった子。ふふっ、でもさっきの子たちの反応からするに、今は随分と偉くなったみたいね」
「いえいえ、私などシェルディア様の足元にも及びません。今でもシス様の雑用係ですよ」
ハジェールは謙遜すると、影人たちに軽く頭を下げた。
「初めまして、紹介に預かりましたハジェールです。あなた方はシェルディア様のご友人とお見受けします。本来、この血影の国は吸血鬼以外は入れないのですが・・・・・・」
「ダメよ、入れなさい」
「分かっております。それが真祖のご友人とあれば特例となりましょう。このハジェールが、皆さまに血影の国をご案内いたします」
シェルディアの命令に頷いたハジェールはニコリと笑みを浮かべた。そして、影人たちはハジェールの案内の元、血影の国に入国した。
「っ、思っていた以上にデカいな・・・・・・ここが血影の国か」
門を潜った影人は思わずそんな声を漏らした。町の最奥にある城との距離が思っていた以上に遠い。ゼオリアルの王都と同じくらいかと思っていたが、恐らくそれ以上だ。そして、城も今まで見た中で1番大きいように感じた。
「血影の国は吸血鬼たちが住まう国。基本的に、全ての吸血鬼はここで暮らしています。現在の吸血鬼の総数は大体10万くらいですかね」
大通りを歩きながらハジェールがそんな説明をする。その数字を聞いた影人は内心で随分少ないなと思ったが、シェルディアは驚いたような顔になった。
「随分と増えたのね。私がいた時は1000人くらいだったのに」
「え、元々そんなに少なかったのか?」
「吸血鬼は不老不死。子孫を残す必要はないですからね。だから、本当に同胞の数は増えたものです」
驚く影人にハジェールがそう答える。なるほど。確かに生物として完結しているのなら、子孫を残す理由がない。
「数が増えた吸血鬼が国を形成するのは、ある意味自然な事でした。そして、吸血鬼たちを統制するのは真祖において他はない。その時には既にシェルディア様は刺激を求め、去られていましたから、シス様とシエラ様がその役目をなさりました。まあ、シエラ様も何百年か前に突然失踪してしまい、今はシス様だけで統制の役目をなされていますが」
「ああ、シエラなら会ったわよ。今は異世界で喫茶店、つまり茶屋を営んでるわ」
「っ、なんと・・・・・・すみません、私とした事が理解が追いつきません。シ、シエラ様が異世界で茶屋を・・・・・・?」
ハジェールは衝撃を受けた顔でそう呟いた。まあ、無理もないだろう。要は、自分たちの国の王様がお茶屋をやっているという感じなのだから。しかも、その場所は異世界。驚くなという方が難しい。
ちなみに、影人たちが大通りを歩いている事に対しての吸血鬼たちの反応だが、揃って奇妙な顔を浮かべていた。高位の吸血鬼たるハジェールがよく分からない者たち(しかも中には獣人族がいる)を連れている。加えて、シェルディアの事を知らない者たちばかりのようだったので、どういう状況か本当に分からないといった感じだった。




