第1684話 最後の霊地へと(4)
「皆様、またのお越しをお待ちしております」
「はい。桜狐さんもありがとうございました。料理、本当に美味しかったです」
「料理のご教授ありがとうございました。主人のためにも、教えていただいた事を実践していきます」
白麗の横に控えていた桜狐がスッと頭を下げる。影人、フェリート、その他の者たちも、美味しい料理を作ってくれた桜狐にそれぞれ感謝の言葉を述べた。
「それでは皆様。元の世界までご案内いたします」
別れが済んだ事で葉狐がそう言った。影人たちが玄関の外に出ようとする。だが、そのタイミングで白麗が思い出したようにこう言った。
「ああ、そうじゃ。忘れておった。シェルディア、改めて、最後の霊地ヘキゼメリは絶対に守り切れよ。あそこには・・・・・・災厄以上に厄介なモノが封印されておるからの」
「っ、災厄以上に厄介な物? それはいったい何なの」
シェルディアが白麗にそう聞き返す。白麗は何かを思い出すような顔で、
「・・・・・・邪なる神じゃよ。生命を許さぬ、無機質の、機械仕掛けのな」
そう言った。
「・・・・・・」
数十分後。影人は空飛ぶ馬車の中にいた。影人たちはテアメエルを出て、ある場所に向かっている最中だった。ちなみに、馬車を創造したのはフェリートなので、影人は通常形態だ。
「・・・・・・思い出しているのは、さっきの白麗の話かしら?」
影人が窓の外をぼーっと眺めていると、シェルディアがそう声を掛けてきた。
「っ、ああ。白麗さんが言っていた邪なる神・・・・・・つまりは邪神だな。そいつの事が気になってな」
「そうね。白麗は結局、詳しい事はシスに聞けと言って教えてくれなかったものね。私も気になるわ」
影人の言葉にシェルディアが同意する。影人はシェルディアに対しこう聞いた。
「嬢ちゃん、そのシスっていうのは確か嬢ちゃんと同じ真祖・・・・・・なんだよな?」
先ほどシェルディアが簡潔に教えてくれた、シスなる者の正体。改めてそう聞いた影人に、シェルディアは頷いた。
「ええ、そうよ。私とシエラ、そしてシス。真祖たる者は私たち3人だけ。でも・・・・・・シスは少し面倒というか何というか、性格が悪いのよね。基本的に自分以外の者を全て見下しているし、高飛車で傲慢。要は嫌な奴なのよ。だから、正直会いたくないわ」
「お、おおう・・・・・・嬢ちゃんのそんな顔初めて見た気がするぜ。というか、嬢ちゃんにそこまで言わせるって相当だな・・・・・・」
心底嫌そうな顔を浮かべるシェルディアを見た影人がそう言葉を漏らす。影人はシスに対して恐れ半分興味半分といった思いを抱いた。
「件の島が見えて来ましたよ。これから上陸します」
すると、そんなタイミングで御者席のフェリートがそう言葉をかけてきた。そして、影人たちは北の海の端にある名もなき島に上陸した。
「さて、白麗が言っていた島に来たはいいけど・・・・・・遺跡は見えないわね。白麗は遺跡の1番奥を目指せと言っていたけど」
「島の奥の方にあるんじゃない? この島、けっこう大きいみたいだしさ」
「そうね。取り敢えず、歩いてみましょう」
ゼノの言葉にシェルディアが頷き、影人たちは孤島を歩き始めた。そしてそれから少しして、影人たちは島の奥に小さな遺跡を発見した。影人たちは、遺跡のに入り奥を目指した。
「ああ、あった。多分ここね」
遺跡は分かれ道もなかったので、1番奥の部屋にはすぐに着いた。最奥の部屋はそれなりに広く、中央奥に古びた石の門のようなものがあった。門には何かの紋様が刻まれていた。
「じゃあ、さっさとあの門を開けて裏世界とやらに行きましょうか」
シェルディアは門に近づいて行った。そして、門の前に立つと門に触れながらこう言葉を唱えた。
「我は望む者。もう1つの世界、硬貨の裏、竜の牙、賢なる者の矢、死したる白骨の手、いたずらなる精霊の笑み、血を啜る不夜の瞳、戦乱を望む魂。それらがかく在りし場所を。我は血を捧げる。我が声に応えよ」
シェルディアは自分の右手の親指を噛みそこから血を流した。そして、その地を門へと付着させた。
「!」
すると、門の紋様が赤い輝きを放った。この門はこの世界に生きる者の血と、先ほどの詠唱で起動する。白麗はシェルディアにそう教えてくれた。
ゴゴゴゴと重々しい音を伴って門が開く。門の先には暗闇があった。ただし、その暗闇は空間が歪んだようにぼんやりとしていた。
「裏世界への門が開いたわね。さあ、行くわよ」
「ああ。でも今更ながら、キトナさんはいいのか? 今から行くのは白麗さん曰く危険な世界らしいが・・・・・・」
「ふふっ、大丈夫です。私、今とてもワクワクしていますから。逆に私を置いていったら怒っちゃいます。それに・・・・・・影人さんが、皆さんが守ってくれるんですよね? だから、全然問題なしです」
キトナが影人たちに対し微笑む。キトナにそう言われた影人たちは、それぞれこう言った。
「ええ。もちろんよ」
「はっ・・・・・・そこまで信頼されちゃ仕方ねえな。守ってやるよ、お姫様」
「俺は守るってキャラじゃないから、危険を壊してあげるよ」
「もちろん。高貴なるお方をお守りするのは、執事としてこの上ない喜びですから」
「ふふっ、なら怖いものなんてありません。さあ、皆さん。裏世界に行きましょう!」
キトナが明るく笑う。影人たちもキトナの明るさに自然と感化され、小さな笑みを浮かべる。そして、影人たちは裏世界への門を潜った。
――最後の真祖がいる世界。戦いと不和が渦巻く世界。そこでいったい何が起きるのか。今は誰も知りはしない。




