第1683話 最後の霊地へと(3)
「あるぞ。まあ、ずっと異世界にいたお前は知らなくて当然じゃがな。大体1000年前くらいじゃったかの。各種族に融和の思いが萌芽し始めた頃、それを嫌った一部の種族たちは、その思いが届かぬ場所を求めた。詳しい説明は長いから省くが、その場所こそが裏世界じゃ。竜族、耳長族、死兵族、妖精族、荒くれた表世界の種族の一部が裏世界に行った。そしてシェルディアよ。お主の同胞である吸血鬼たちも、裏世界におるぞ」
「っ、そうだったの・・・・・・道理で、吸血鬼やそれらの種族を見なかったわけだわ」
「まあ・・・・・・そんな世界があるなんて、私初めて知りました」
「今や裏世界の事を知る者は殆どおらんからの。知っておるのは、妾のような長生きな者たちくらいじゃ。表世界の王族ですら、知らぬ者ばかりじゃろうて。加えて、裏世界の者はほとんど表世界には来んからの」
キトナの呟きに白麗がそう言葉を述べる。そして、白麗は言葉を続けた。
「じゃが、裏世界に行くのなら多少は警戒せいよ。彼の世界は表世界とは違い、種族、国家間の仲が良くない。未だに争いが絶えん世界じゃ。まあ、お主たちなら行っても問題はないが・・・・・・一応危険な世界じゃよ」
「つまりは力が全ての世界という事ね。こう言ってはあれだけど、聞く限り何だか懐かしい世界だわ」
シェルディアはそう言うと茶を飲んだ。そして、白麗の白銀の瞳をしっかりと見つめた。
「教えてちょうだい、白麗。その裏世界にはどうすれば行く事が出来るの?」
「ふむ、やはり行くのじゃな。よかろう、行き方を教えてやる。すぐに出るのか?」
「そうね。行くのは出来るだけ早い方がいいわ」
「相分かった。朝食を終えたら妾の部屋に来るがよい。そこで行き方を話す」
「ありがとう。感謝するわ」
シェルディアは白麗に感謝の言葉を述べた。そして数十分後、影人たちは白麗の部屋で裏世界への行き方を教えてもらったのだった。
「色々よくしてくれて、ありがとう白麗さん。本当、助かったぜ」
白麗邸玄関。昼食を頂き荷物を纏めた影人は白麗に対し頭を下げた。
「この度はお世話になりました。感謝いたします」
「本当に素晴らしい体験をさせていただきました。お礼申し上げます」
「ん、ありがとう」
影人に続きフェリート、キトナ、ゼノも感謝の言葉を述べる。シェルディアも笑みを浮かべこう言った。
「色々と感謝するわ。だから、シエラやあなたを知る者に会ったとしても、あなたが下手くそな絵を描いているという事は黙っていてあげる」
「お前妾に喧嘩売っておるのか? 別に買ってやるぞ。お主の脳みそを引きずりだして記憶を消してやるわ」
白麗はピキピキと引きつるように笑い、シェルディアに殺意の込もった目を向けた。普通に今からでもシェルディアに襲い掛かりそうな雰囲気だ。
「ふふっ、それもいいわね。あなたとの戦いはそれなりに楽しいし。でも、残念。また今度にしましょう。じゃあね、白麗。楽しかったわ」
「ふん・・・・・・妾も楽しかったぞ。久しぶりに心躍った時間じゃった。シェルディア、帰城影人、ゼノ、フェリート、キトナ・ヴェイザよ。いつでも来るがよい。妾はお主たちを歓迎しよう。そして、餞別じゃ。受け取れ」
白麗はフッと笑い影人たちにそう言うと、亜空間から少し古びた紙のような物を取り出した。そして、それをシェルディアへと手渡した。
「? これは?」
「裏世界の地図じゃ。最近は向こうに行っておらんゆえ、今から100年ほど前のものにはなるが、ないよりはましじゃろう。せいぜい、有効に使え。お主らが目指すヘキゼメリもその地図に載っておる」
「っ、そう。重ねて感謝するわ。ええ、存分に使わせてもらうわね」
「応よ。じゃあのお主たち。葉狐、客をしっかりと送るのじゃぞ」
白麗が影人たちに別れの言葉を述べ、葉狐にそう告げる。白麗に言葉を受けた葉狐は「御意」と頷いた。




