第1682話 最後の霊地へと(2)
「ふぁ〜あ・・・・・・眠い。昨日はちょっとはしゃいだり夜更かしをし過ぎたからな・・・・・・」
翌朝。廊下を歩きながら影人はそう呟いていた。宴会をして風呂に入り、その後は白麗指導の元、ゼノとボードゲーム。寝たのはかなりの深夜だ。ゆえに、影人は未だに強い眠気に襲われていた。
「おはよう」
「おはよう影人。ふふっ、眠そうね」
「おはようございます、影人さん」
「おはよう」
影人は大座敷の襖を開け朝の挨拶をした。すると、既に座敷にいたシェルディアとキトナ、ゼノが挨拶を返してきた。
「あれ、白麗さんとフェリートは?」
「白麗は多分まだ寝てるわね。葉狐がそう言ってたから。それか、ふふっ恥ずかしくて私たちの前に出てこれないのかもしれないわね」
シェルディアが昨日の事を思い出し笑う。その笑みは「あいつ昔から知ってるけど、そんな事してたのかー。どう料理しようかな」的な笑みだった。つまりはまあ、シェルディアの笑みは獲物の弱みを握った狩人のようだった。影人は心の中で白麗に手を合わせた。
「フェリートはトイレ。もうすぐ戻ってくると思うよ」
「そうか」
影人は隣に座っているゼノから話を聞くと、手を合わせ箱膳に用意されていた朝食を食べ始めた。相変わらず、桜狐の料理は絶品だ。影人が卵焼きを食べていると、座敷の襖が開かれた。影人はフェリートが戻って来たかと思ったが、入って来たのは白麗だった。
「あら、おはよう白麗。ふふっ、どうやら恥ずかしくて出て来れないわけではなかったのね」
「っ、朝からニヤニヤと笑うな。不愉快じゃ。全く、よりにもよって最悪の奴に・・・・・・これも全部、あのアホ狐のせいじゃ。あのアホ狐、今日の夕餉抜きにしてやる」
シェルディアにそう言われた白麗は不機嫌そうに自分の席へと座った。とばっちりかどうかは怪しいところだが、葉狐はまたしてもご飯抜きになった。
「しかし、意外だったわね。あなたがまさか絵を描いているなんて。ねえ、ぜひ見せてちょうだいな」
「絶対に嫌じゃ。お前に見せれば未来がどうなるのかあまりにも容易く分かるわ。後、この話はもう禁止じゃ。2度とするな」
「嫌よ。だって、逆ならあなたも同じ事言うでしょう」
「うぐっ・・・・・・まあ、確かに妾もそう言うの。はあー、だから嫌じゃったんじゃ。お前にバレるのは」
白麗はため息を吐くと、朝食を摂り始めた。それから少しして、フェリートもトイレから戻ってきた。全員が揃ったタイミングで、シェルディアは白麗にこう聞いた。
「ねえ白麗。話は変わるのだけれど、あなたは最後の霊地・・・・・・ヘキゼメリという場所を知っているかしら? 地図にも載ってないし、誰も知らないって言うのよ。結局、あの鬼はフェルフィズではなかったし、私たちはヘキゼメリに行かなければならないわ。でないと・・・・・・この世界と影人たちの世界の境界が完全に破壊されてしまうから」
フェルフィズによって、既に4つの霊地は崩された。残るは最後の霊地ヘキゼメリのみ。そこを崩されれば、フェルフィズの勝ちだ。影人たちは本当に何としてでも、最後の霊地を守らなければならない。もう後はないのだ。
「ああ、知っておるぞ。誰も知らぬのも無理はない。何せヘキゼメリは表の世界にはない。この空間と同じ異界・・・・・・裏世界にあるからの」
「裏世界? そんなものがあるの?」
白麗の答えを聞いたシェルディアが軽く驚いたような、不思議そうな顔を浮かべる。シェルディア以外の者たちも、似たような顔を浮かべた。




