第1678話 水天を飛ばせ(2)
「・・・・・・ふむ。一応、境界を不安定に出来る箇所が1つしかなかったので、念を入れて適当な者を使ってみましたが・・・・・・どうやら正解だったようですね」
同時刻。カレル湖から少し離れたカゲオニの町。宿屋の一室にいた幽霊の男は、座布団に座りながらポツリとそう呟いた。男の正体は忌神フェルフィズ。フェルフィズは昨日、鬼之助には気づかれずに、鬼之助の体にカメラと盗聴器の役割を持つ超小型の神器を忍ばせ、そこから現在のカレル湖の状況を把握していた。
「ふふっ、残念ですねえ影人くん。今回もあなた達は私には届かなかった。ああ、君との鬼ごっこは本当に楽しい」
余裕たっぷりにフェルフィズは笑った。鬼之助の位置が変わったからか影人の顔は見えないが、影人の悔しがる顔が目に浮かぶ。フェルフィズは快感を抱いていた。
「さて、ここの霊地も崩せましたし長居は無用。そろそろ去るべきですが・・・・・・はあー、問題は最後の霊地の場所が分からない事なんですよね」
フェルフィズはため息を吐いた。5つ目の霊地の場所はフェルフィズの神器を使っても未だに分からずじまいだ。一応、他にも霊地はあるにはあるのだが、他の4箇所のような次元の軛となる霊地ではない。だが、必ずもう1つ他の4箇所と同等の霊地はあるはずなのだ。
「最後の霊地の謎・・・・・・何としてでも解かねばなりませんね。もう少しの間、このテアメエルで情報を収集してみますか」
少しリスキーな選択にはなってしまうが仕方ない。どうせ、自分を影人たちが見つける事は出来ない。フェルフィズはそう考えると、立ち上がり外へと出て行った。
「・・・・・・」
光の柱の中に浮き上がってきたのは、水の体をしたモノだった。他の災厄と同じようにその造形は子供のようで、閉じられた目がある顔は中性的。髪の長さは背に掛かるくらい。中性的な顔立ちではあるが、髪の長さが与える印象はシイナと同じくどこか女性的でもあった。そして、その背には水の翼があった。
「ふむ、霊地が不安定になった事で封印が解けたの。水の災厄、『水天』のレナカ・・・・・・見るのは久しぶりじゃな」
水の災厄の姿を見た白麗が少し真剣な顔になる。どうやら、白麗は水の災厄の事を知っているようだ。
「やはり、知っているのね白麗。あの災厄の事」
「当然じゃ。ここは妾の国で、あ奴らが暴れていたとき妾もおったからの。『水天』のレナカを封じたのは当時の勇気ある剣士と術師じゃった。まあ、奴らだけでは力不足じゃったから、妾も多少力を貸してやったがの。だから顔見知りというわけじゃ」
シェルディアの言葉に白麗が頷く。すると、白麗の言葉に呼応するかのようにレナカがその目を見開いた。その目は例の如く、他の災厄たちと同じように複雑で美しい紋様が刻まれていた。
「・・・・・・封印が解けたようね。現在の世界の情報・・・・・・把握」
レナカはそう呟くと虚空を見つめ、その目で様々な情報を取得した。光の柱から出たレナカはやがて、カレル湖の近くにいた生命反応――つまりは影人たち――に気がついた。




