第1676話 網を張れ(4)
「意外だね。君が俺と戦いたいだなんて」
十数分後。影人とゼノは更地エリアにいた。ゼノは準備運動をするように軽く首を動かした。
「・・・・・・よく考えれば、お前と共闘した事はあっても戦った事はなかったからな。ああ、この前の零無の前に戦ったあれはノーカンだぜ。あんなもんは正式な戦いじゃねえからな。・・・・・・それで、昨日ちょっと自分の不甲斐なさに気付いてよ。せっかくだから、戦ってみたくなったんだ。最強の闇人であるお前とな」
スプリガンに変身した影人がゼノにその金色の瞳を向ける。影人の言葉を聞いたゼノは「確かにそうだね」と頷いた。
「俺もこの前のあれを正式な戦いとは思ってない。いいよ、戦ろう。俺も君と戦いたくないって言ったら多分嘘になるからね」
「はっ、ありがとよ」
影人とゼノが互いに小さく笑う。影人もゼノも別に戦闘が好きというわけではない。どちらかというと、2人とも戦いは面倒だと思うタイプだ。
だが、2人とも今回だけは乗り気だった。その理由を明確に言語化する事は影人にもゼノにも難しかった。
「ルールは1つだけ。互いに殺さない事だけだ。即死以外の攻撃なら何をしてもオーケー。これでいいな?」
「問題ないよ」
影人が最後に確認を取る。ゼノは同意を示した。
「・・・・・・行くぜ」
影人がその体に身体能力を強化する闇を纏わせる。その他にも眼の強化、『加速』、『硬化』、『破壊』なども。
「うん。来い」
ゼノも全てを喰らう破壊の闇を解放する。ゼノの体から濃密な闇が噴き出し、ゼノの髪の右半分が黒に染まる。
そして、妖精の名を冠する怪人と『破壊』の名を冠する闇人は互いに地を蹴った。
「・・・・・・今日でここに来て5日目か」
白麗の屋敷の縁側で薄い曇り空を見上げていた影人はポツリとそう呟いた。
あれから、影人はたまに町に出たり、またシェルディアと戦ったりして時を過ごしていた。久しぶりの(世界から消えていた影人からすれば、それほど久しぶりという感覚ではないのだが)シェルディアとの戦いは正直地獄だったが、戦いの感覚は否応にも鋭さが戻った。シェルディアに感謝である。
(今回もあいつが行動を起こす時間の幅が長いな。この時間の幅には何か意味があるのか・・・・・・)
影人がフェルフィズについて思案する。あの狡猾な忌神の事だ。恐らく意味はあるのだろうとも思えるし、愉快犯的性格から影人たちを焦らして楽しんでいるとも思える。腹立たしい限りだ。
「・・・・・・だが、今回は網を張ってる。今まで通りとはいかないぜ」
影人がポツリとそう呟く。すると、影人の背後から声が聞こえてきた。
「帰城影人様」
「っ、葉狐さんか。どうしたんだ?」
声を掛けて来たのは葉狐だった。影人は振り返り葉狐を見つめた。
「白麗様がお呼びでございます。申し訳ありませんが、大座敷までお越しいただけますか」
「白麗さんが・・・・・・? 分かりました」
影人は葉狐に連れられ大座敷に向かった。
「おお、来たか」
影人が大座敷に入ると白麗がそう声を掛けてきた。座敷にはシェルディア、キトナ、ゼノ、フェリートもいた。
「っ、どうしたんだ。何かあったのか?」
「まあそうじゃな。朗報じゃぞ、帰城影人」
全員が揃っているのを見た影人が顔色を変える。白麗は影人にそう前置きすると、
「獲物が網に掛かったぞ」
笑みを浮かべた。




