第1675話 網を張れ(3)
「正直、とても助かる話ね。・・・・・・でも白麗。あなたのその話は本当なのかしら。あなたが私たちに嘘を教えている可能性もゼロではないわよね」
「・・・・・・ほう?」
シェルディアがスゥと目を細め白麗を見つめる。白麗は面白いといった感じでシェルディアを見つめ返した。
「昔からあなたには何度か騙されたわ。私と同じく退屈を嫌う不死者としての性。そして、あなたは嘘を楽しむ妖狐。悪いけど、疑わせてもらうわ」
シェルディアがそう言った瞬間、大座敷に緊張が奔った。少しだけ、ほんの少しだけシェルディアが自身の気配を解放したのだ。キトナ以外の者たちはそれくらいの気配ならば既に慣れていたが、初めてシェルディアの気配の一端を感じたキトナは「っ・・・・・・!?」と驚きと緊張が入り混じった顔を浮かべた。
「ほほっ、まあ妾を知るお前ならば疑うか。無理もない事じゃ。・・・・・・じゃが、今回ばかりは嘘ではない。妾もこの国に愛着がある。そこに生きる民にもな。その国が危険に晒され、やがてこの世界が大混乱に陥る可能性があるとなれば、嘘はつけんよ。まあ正直、そうなればなったらで面白そうとは思うがの」
白麗は軽く肩をすくめた。シェルディアはしばらくの間白麗をジッと見つめ続け、
「・・・・・・分かったわ。ならば、今回はあなたを信じましょう」
ふっと視線を外しそう言った。
「でも、嘘だったら許さないから」
「承知しておる」
白麗がフッと笑う。その瞬間、場を満たしていた緊張感は完全に霧散した。
それから朝食はつつがなく進行した。影人たちはようやくフェルフィズを捕えるチャンスを得たのだった。
「それじゃあ、私とキトナはヒギツネの町に行ってくるけど・・・・・・あなた達は行かなくて本当にいいの?」
朝食を食べ終えてしばらく時間が経った頃。葉狐とキトナと共に玄関にいたシェルディアは、影人たち男性陣に対しそう言った。
「ああ。俺は今日はちょっとゆっくりしたい気分だしな。嬢ちゃんたちは存分に観光してきてくれ」
「俺もそんな感じ」
「私は桜狐さんなる方に料理の事を聞きたいので」
影人、ゼノ、フェリートはそれぞれ答えを返す。3人の答えを聞いたシェルディアは「分かったわ」と頷いた。
「では、また後でね。行きましょうかキトナ」
「はい。では皆さん後ほど」
シェルディアとキトナは葉狐に連れられ屋敷を出て行った。
「さて、では私も厨房にお邪魔するとしますか」
「お前場所分かるのか?」
「先ほど葉狐さんに1度屋敷の地図を見せてもらいました。その時に覚えましたよ」
「お前凄いな・・・・・・」
「これくらい執事として当然です」
フェリートは影人にそう言うとスタスタと廊下を歩いて行った。
「じゃ、俺も部屋に戻ってのんびりしようかな」
ゼノもそう言って玄関から去ろうとした。だが、影人はゼノを呼び止めた。
「あ、待ってくれゼノ。悪いんだが、ちょっと付き合ってくれねえか?」
「? 何に?」
ゼノが不思議そうな顔で首を傾げる。影人はこう言葉を放った。
「互いに死なない範囲での戦いだ」




