第1671話 天狐の力(4)
「ほほっ、さてでは妾も手札を切るかの」
白麗はニィと笑うと異空間から2つの白い扇を取り出した。そして、その扇で剣や鎖を弾いた。
「っ、鉄扇か・・・・・・!」
「ただの鉄扇ではないぞ。その力、味わわせてやろう」
白麗が影人に向かって鉄扇を振るう。だが、白麗の鉄扇は宙を空振った。単純にリーチ外だ。
「っ・・・・・・?」
影人が白麗の行動に疑問を覚える。しかし、その答えはすぐに分かる事になった。影人は自身の正面に密度の濃い空気、その刃を見た。
「かまいたち・・・・・・風の刃か!」
「流石に分かるか。まあ、お主は風の災厄で既にそれを体感しているからの。分かって当然か」
影人が直前で体を逸らす。白麗は楽しげにそう言った。
「妾の舞を見せてやろう。ありがたく思え」
「ちっ!」
白麗は両手の鉄扇を舞うように影人に振るった。その意味するところを知った影人は、回避の行動に移る。
「ほれほれどうした? 避けているばかりでは戦いにならんぞ」
「言われなくても分かってるぜ・・・・・・! その綺麗な顔に傷がついても文句言うなよ・・・・・・!」
影人は両手に闇色の拳銃を創造した。そして、白麗に向かってそれらを連射する。
「む、小型の鉄砲か」
白麗は自分に向かって来る銃弾を視認すると、鉄扇でそれらを弾いた。影人は銃を連射しながら白麗へと肉薄する。
「やっと近づけたぜ。あんた、明らかに近距離戦避けてただろ。そういうのは・・・・・・近距離戦が苦手だって言ってるようなもんだ」
懐に入った影人がニヤリと笑う。そして、影人は白麗に対し右の蹴りを放とうとした。
「ふむ、良い着眼点じゃ・・・・・・だがな、その認識は甘いぞ」
白麗が超然とした笑みを浮かべる。すると、白麗の周囲の空間から長い白銀の尾のようなものが複数出現した。
「っ!?」
「妾は等しくどの距離でも強いのじゃからな」
影人が驚いたようにその金の瞳を見開く。白麗が影人にそんな言葉を送ると同時に、白銀の尾のようなものは影人に襲いかかって来た。その速度は目を闇で強化した影人をしても速かった。
(くそっ・・・・・・!)
今からでは避けきれないと思った影人は幻影化を使用した。影人の体が陽炎のように揺らめき、尾による攻撃は無力化された。
「ほう、そんな事も出来るのか。芸達者じゃのう」
白麗が意外そうに白銀の瞳を軽く見開く。影人は白麗から少し離れた場所で実体化した。
「・・・・・・そいつは尻尾か?」
「ああ。妾の尾じゃよ。妾は生きれば生きるほど尾が増え強くなる者での。じゃが、尻尾は邪魔じゃから普段は異空間に仕舞っておるんじゃ。戦いの時なぞはこのようにして使う事も出来る」
白麗が影人の問いかけに首を縦に振る。そして、白麗はこう言葉を続けた。
「そして、この尾を使える範囲は・・・・・・妾の視界内全てじゃ」
白麗がそう言うと同時に影人は背後に凄まじい衝撃を感じた。
「がっ・・・・・・」
ベキボキと背中から嫌な音が聞こえる。同時に激痛が影人を襲う。恐らく背骨が何本か折れた。影人は白麗の方に向かって叩き飛ばされた。影人を叩き飛ばしたのは白麗の尻尾の1つだった。
「それ、お手玉じゃ」
白麗は向かってくる影人を尻尾の1つで軽く叩いた。影人は顎に激痛を覚え今度は上に飛ばされる。すると、今度は上から尻尾が現れ影人を叩いた。叩かれた先にもまた尻尾が待ち受けており、影人は再び叩かれる。まるでお手玉のように。
(クソ・・・・が・・・・・・何が殺さないだ・・・・・・あの狐・・・・・・)
痛みで薄れ行く意識の中、影人は白麗に怒りと殺意を覚えた。スプリガンの肉体でなければ、とっくに死んでいる。いくらなんでもバカスカとやりすぎだ。負の感情は闇の力の源となり、影人の力を強化する。影人は回復の力を使用しダメージを全回復させると、再び幻影化を使用し悪魔のお手玉から逃れた。




