第1670話 天狐の力(3)
「無論、本気じゃとも。妾は別に戦いが好きで好きで仕方ないというわけではないのじゃが・・・・・・妾と対等に戦える相手は皆無でな。だが、目の前には妾と対等に戦える相手がおる。そう思ったら童のようにうずうずとしてきたのじゃ。互いに不死同士。加減も気兼ねもいらんじゃろ。どうじゃ、付き合ってくれんか?」
白麗の白銀の瞳を影人はスプリガンの金の瞳で受け止めた。影人は少しの間押し黙る。そして、口を開いた。
「・・・・・・何か勘違いしているようだが、俺は別に不死じゃない。ただ『世界』を使ってる時だけ不死なだけだ。『終焉』は限りなく不死状態に近いが、完全じゃないからな」
「そうじゃたのか。ならば、妾はお主を殺さぬように気をつけよう。ああ、お主は殺す気で来て良いぞ」
「殺す気でって・・・・・・俺の力は不死すら殺すぞ? 流石に嬢ちゃんの知り合いを殺す事は出来ない」
「別に大丈夫じゃよ。1回くらいは死んでもな。だがまあ、お主がどうしてもその力を使いたくないというなら仕方ない。ではこうしようぞ。不死殺し抜きの力で妾と全力で戦う。互いに殺す事は禁止じゃ。どうじゃ? これならよいか」
白麗はどうしても影人の力を試したいのか、そんな提案をしてきた。シェルディアと似た気質の白麗は、影人がここで頷かなければ機嫌が悪くなる。そうなれば、滞在にも支障が出るかもしれない。そう考えた影人はため息を吐くと、帽子を片手で押さえた。
「はあー・・・・・・分かったよ。その条件でなら戦ってやる」
「おお、そうか。ならば戦ろうぞ。ほほっ、戦いなんていったい何百年ぶりかの」
影人の答えを聞いた白麗は上機嫌な様子で立ち上がり庭に出た。影人も続くように庭に出る。
「ここで戦うのか? 庭はもちろんだが、屋敷も滅茶苦茶になるぜ」
「いや、もっと広い所じゃ。帰城影人、妾に着いて参れ」
白麗はそう言うと宙に浮かびどこかへと飛び始めた。当然の如く空を駆ける白麗。影人は白麗に続き自身も浮遊の力を使い白麗の後を追う。
屋敷の外の空間には屋敷を囲むように竹林が広がっており、それより外は更地だった。そして、更地には終わりがあり、紫と青が混じり合った空間が壁のように存在していた。それらがぐるりと更地を囲んでいる。ここは異空間なので、おそらくあれが異空間の終わりなのだろう。
つまり、この空間は巨大な円形の地面があり、外周部が更地、次に竹林、中央部に屋敷があるという構造になっていた。スプリガンの目は、今は夜に染まるこの世界を正確に映していた。
「ここでいいじゃろ」
白麗は更地に降り立った。影人も白麗の対面に降り立つ。
「じゃあ・・・・・・戦るか」
「応。先手はそちらにやろう」
「なら・・・・・・遠慮なく行くぜ・・・・・・!」
影人は自身の肉体にあらゆる強化の力を施した。影人の体に闇が纏われ、神速の速度で動く。同時に、影人は自身の周囲から闇色の剣を創造し、闇色の鎖を虚空から呼び出した。
「接近戦を選ぶか。男よの」
『加速』を施している影人に白麗はこれまた当然ながらしっかりと反応した。白麗はバックステップで影人から距離を取る。影人は先に剣と鎖を先行させると、白麗を追った。




