第1668話 天狐の力(1)
「俺と話・・・・・・?」
白麗にそう言われた影人は思わずそう聞き返した。
「ああ、言ったじゃろ。お主に興味があると。加えてこうも言ったはずじゃ。滞在中、妾に色々話を聞かせてくれとな。夕餉の時はシェルディアとばかり話してしまったからの。お前たちとはほとんど話せなかった。だから、付き合っておくれ」
「・・・・・・分かった。タダでこんなにもてなしてくれてる礼だ。付き合うぜ」
「おお、それでこそじゃ。ほれ、座れ座れ」
影人の答えを聞いた白麗が嬉しそうな顔になる。影人は白麗の横に腰を下ろした。
「呑むか? テアメエルの地酒じゃ。美味いぞ」
白麗は横に置いていた徳利のような容器を持って影人に見せてきた。影人はかぶりを振った。
「いやいい。一応、俺のいた国じゃ酒はまだ呑めない歳だし、今のところ興味もないからな」
「なんじゃつまらんな。酒が呑めないなど生の半分は損しておるぞ」
「その他のところに生の楽しみやらを見出してるからいいんだよ」
呑兵衛の言葉に影人はそう言葉を返すと、外の景色を見つめた。外は和式の庭園が広がっており、夜の帳が下りていた。月は叢雲にちょうど隠れている。
「・・・・・・ここは確か異空間なんだよな。それでも外の世界と風景が変わらないように見えるが」
「そういう風に妾が創ったからの。ここの時間と外の時間は関連しておる。現実が昼なら昼に、夜なら夜にという風にな」
「凄えな。って事は、白麗さんも『世界』を使えるのか。ここは『世界』の応用で創った空間・・・・・・で合ってるか?」
「当たりじゃよ。今の言葉からすぐにその答えに辿り着くとはさすがじゃの。そう言えば、お主も『世界』を使えるんじゃったな。確か『影闇の城』じゃったか。命ある者ならば災厄すら殺す。まこと、恐ろしい『世界』よ」
天眼で影人の『世界』を知っている白麗は軽く笑うと、酒をおちょこのような物に移し呷った。
「で、酒の肴にどんな話を聞きたいんだ。あんたは既に俺の正体を、スプリガンを知ってる。大体の事なら話してもいいぜ」
「ふむ、そうじゃな。聞きたい話は色々とあるが・・・・・・ならまずはシェルディアとどう出会ったのかを聞かせてもらおうかの」
「嬢ちゃんとの出会いか。別にいいが、俺と嬢ちゃんとの出会いはちょっと特殊でな」
影人は白麗に自分とシェルディアがどのように出会ったのかを話した。最初は互いに敵と知らずに出会った事。シェルディアが影人を気に入り隣人となった事。そして、やがて影人がシェルディアの正体を知り戦いになった事を。
「結局、俺は嬢ちゃんの優しさに助けられて和解する事が出来た。それからは色々とスプリガンとしての俺を手伝ってもらったりした。まあ、そのせいで今じゃすっかり頭が上がらないんだがな。色々と詳しい説明は省いたが、俺と嬢ちゃんの出会いはこんな感じだ」
「ほう、そうか・・・・・・それはまた何とも運命の悪戯のような出会いじゃな」
影人の話を聞いた白麗はそう呟くと酒を呑んだ。そして、影人にこう言ってきた。
「しかし、よくもまああのシェルディアやゼルザディルムとロドルレイニと戦って生き残ったものじゃ。普通、間違いなく死んでおるぞ」
「ああ。白麗さんの言葉の意味は身に沁みて分かる。俺は間違いなく運が良かった。まあ、死んでる云々に関しては、俺2回死んでるんだがな」
「ほほっ、2回死んでいるか。じゃがお主はここで話をしておる。お主、本当に面白いのう」
「2回死んでるを面白いか・・・・・・はっ、さすがは嬢ちゃんと同レベルの不死者だな」
あまりに不死者ライクな言葉に影人は思わず笑ってしまった。こんな言葉で笑える辺り、随分と感覚が麻痺してきた。だがまあいいか。影人はそう思った。




