第1666話 魔なるモノを統べる者(3)
「彼女の目は特別なのよ。この世界のどんな場所やモノだって見る事が出来る。しかも、今言ったように視線を対象に気取られない。確か、天眼・・・・・・だったかしら?」
「そうじゃ。妾の目には神通力が宿っておってな。ゆえに、妾はお前たちの事を既に知っているのじゃよ」
「・・・・・・なるほど」
シェルディアの言葉に頷いた白麗。白麗が自分たちの事を知っていた理由を理解した影人は、ただ一言そう呟いた。影人たちの名前やキトナの正体を知っているという事は、ただ見るだけでなく声なども分かるという事だろう。さすがはシェルディアと同等の存在だ。その情報だけでも、明らかにそこらの者たちとはレベルが違う。
「あら? 今気づいたけど、あなた尻尾はどうしたの? 昔は何本か生えていたでしょ」
「ああ、あれは百年経ると増えていく一方で重くてな。今は適当に亜空間に仕舞っておるよ」
「へえそうなの」
少し雑談というわけではないが、シェルディアと白麗がそんな会話をする。確かに、白麗は葉狐と同じ妖狐なのに尻尾は見えなかった。
「さて、積もる話はあるが他の者を待たせてもいかん。そろそろ、他の者たちとも言葉を交わすとするか」
白麗は視線をシェルディアから外し影人やその他の者たちに向けた。
「キトナ姫を除く異世界の者たちよ。妾はお前たちがこの世界に来た理由を知っておる。もちろん、妾の国に来た理由もな。妾はお前たちに興味がある。特に3つの災厄を滅した者・・・・・・帰城影人。お主にな」
「・・・・・・それは光栄です、と言うべきなんでしょうか」
前髪の下の目で影人は白麗の白銀の瞳を受け止める。影人からしてみれば、正直これ以上ヤバそうな者から興味を抱かれるのは嫌だった。
「言葉を崩してもよいぞ。お前は妾と同等かそれ以上の力を有しておる。資格は充分じゃ」
「・・・・・・分かった。なら普通に話させてもらうぜ」
白麗の言葉に従い影人は言葉を崩した。影人の経験上、こういう場面は謙遜するより素直に相手の言う方に従った方がいい。影人の言葉を聞いた白麗は「ほほっ、それでよい」と機嫌よく笑っていた。
「ちょっと白麗。影人に興味を持つのはいいけど、この子に何かしたら許さないわよ」
「おや、嫉妬かえシェルディア? まあ、見ていた限り、お前は随分と帰城影人を気に入っているようじゃからの。ほほっ、可愛いのう。昔のお前とは大違いじゃ」
ムッとした顔のシェルディアに白麗は面白くて仕方ないといった様子でそう言葉を返す。白麗にそう言われたシェルディアは「っ、茶化さないで」と顔を背けた。その様子はどこか照れているように見えた。影人やフェリートやゼノといったシェルディアとそれなりの付き合いがある者は、その様子が新鮮なものに映った。まるで、あのシェルディアが手玉に取られているようだ。
「まあ安心せい。取って食うような真似はせんよ。何せ、お主たちは全員大切な妾の客じゃからな。お主たちしばらくの間この国に滞在するのじゃろ。フェルフィズなる神を捕まえるために。その滞在先にこの屋敷を使うがよい。金銭はいらん。部屋はいくらでも余っておるからの。無論、風呂も勝手に使ってよいし飯も出そう」
「っ、そんな好条件・・・・・・いいのですか?」
「よいよい。妾がそうしたいだけじゃからな。ただ、滞在中妾に色々話を聞かせてくれ。お前たちの話はまこと面白そうじゃからな」
あまりに自分たちに都合のいい話なので、フェリートが思わずそう聞き返す。白麗はゆったりと頷いた。




