第1664話 魔なるモノを統べる者(1)
和式という事もあってか影人たちは玄関で靴を脱いで屋敷へと上がった。こちらの世界に来てからは建物の中は靴を履いたままが多かったので、日本人の影人からしてみれば懐かしい感覚だった。
「白麗様は奥の座敷にいらっしゃいます。この屋敷は本当に無駄に広・・・・・・失礼。とても広いので迷家のようになっています。ですので、どうか私から離れないように」
家に上がった葉狐が影人たちに軽く注意する。影人たちは全員その言葉を了解し頷いた。
「では、白麗様の御座す所までご案内いたします。皆様、これまで通り私の後に」
葉狐が広く長い廊下を歩いて行く。影人たちは葉狐の後に続いた。
「素敵ですね。テアメエルの建築様式や文化はほかの国に比べて独特とは聞いていましたが・・・・・・実物は思っていた以上に何倍も心動かされます」
「ああ、キトナさんはそう感じるのか。俺はどうにも故郷を思い出す感じだぜ」
廊下の左右にある美しい絵などが描かれた襖を見たキトナが感嘆する。影人はテアメエルに来てから感じていた郷愁感のようなものが少し強くなった。
それから、影人たちは葉狐の後に続き廊下を幾度も曲がった。廊下の両隣にはずっと襖景色が続いているので、まるでずっと同じ所をループしているような感覚に陥る。確かに迷家のようだと影人は思った。
「・・・・・・着きました。この廊下の先の奥の座敷に白麗様はいらっしゃいます」
影人たちが家に入ってからどれくらいの時間が経っただろうか。幾度も幾度も廊下を曲がり、やがて1本道の廊下に出ると、葉狐は影人たちにそう告げた。
「ここから先は皆様だけでお進みください。私は白麗様から入室の許可は頂いておりませんので」
「・・・・・・分かったわ」
葉狐がその場に控える。シェルディアは頷くと先陣を切って廊下を進み始めた。影人たちも今度はシェルディアの後を歩き始める。
そして、影人たちは奥の襖の前に辿り着いた。
「開けるわよ。別に何もしてこないとは思うけど・・・・・・みんな準備はいい?」
シェルディアが入室の前に影人たちにそう言ってきた。影人たちはその確認に頷いた。
「ああ」
「うん」
「ええ」
「はい」
「じゃあ、ご対面といきましょうか」
影人、ゼノ、フェリート、キトナの確認を取ったシェルディアは襖を開けた。
襖を開けた先は畳が敷き詰められた、だだっ広い縦に長い座敷だった。いったい何畳あるのかは分からない。そしてその部屋の1番奥の中央上座。そこにその女は座っていた。
「――よう来たな。待っておったぞ」
女は美しい声でそう言うと、影人たちを見つめて来た。
女は薄い白銀に墨色が所々入った長髪の美人だった。絶世のとつけてもいいレベルだ。見た目は20代後半から30代前半に見える。その瞳の色は髪と同じく白銀。頭にあるキツネ耳もまた白銀だった。纏う服装は女とは対照的な黒の着物。胸元は大きく開かれたわわな2つの双丘が覗いている。女は肘掛けに体を預け右手にはキセルのようなものを持っていた。全体的に女はゾクリとするような色気を放っていた。




