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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
1663/2051

第1663話 テアメエル到着、妖狐の案内(4)

「皆様、ご到着されましたね。先ほどぶりです。妖狐の葉狐でございます。そして、ようこそ。ここがテアメエルの中心都市、ヒギツネでございます」

 瞬間移動で先に移動していた葉狐が再び影人たちの前に現れる。葉狐はスッと自分の後ろに広がるヒギツネの町の景色に手を向けた。

 そこには美しくも風情ある景色が広がっていた。まず特徴的なのは正面に広がる和風の城だろう。灰色の屋根瓦と白く塗られた土壁は、影人の世界にある日本の城を強く想起させる。あの城がこの町のシンボルになっているだろうという事は、想像に難くなかった。

 次に町の光景。町にある建物は今まで影人たちが巡った町とは違い木造だった。城と町の光景はどこか日本の近世時代を想起させた。

 そして、最後にそこに生きる者たち。そこには魔族のように頭からツノを生やした者や、炎の体を持つ者、布の体を持つ者など、様々な者たちがいた。

「・・・・・・パッと見た感じ、妖怪版江戸時代って感じか。なんか、今までで1番異世界って感じの町風景な気がするな」

「私には少し懐かしい感じね。それで、白麗はあの城にいるのかしら?」

 影人の感想にシェルディアはそう言葉を返すと、葉狐にそう聞いた。だが、葉狐はかぶりを振った。

「いいえ、あの城に白麗様はおりません。あの城にいるのは、テアメエルの民の代表者としてこの国の統治をしている耀山ようざんという鬼の男でございます」

「っ、白麗がこの国の統治者ではないの?」

 シェルディアが意外そうな顔になる。白麗が生きてこの国にいるのならば、てっきり白麗がこの国を統べているとシェルディアは思っていた。

「あくまで表向きはという事でございます。この国の真の統治者であり裏の統治者は白麗様です。まつりごとは面倒だという理由で、1000年ほど前から表には出て来られなくなりました。ゆえに、白麗様はテアメエルの民たちに政を任せておいでなのです」

「ああ、なるほど。そういう事・・・・・・彼女らしいわね」

 葉狐の答えを聞いたシェルディアは納得した。白麗も不死者らしく自身の興味ある事にしか動かない性格だ。加えて、白麗はプライドが高い。裏の統治者という葉狐の説明はシェルディアにはしっくりときた。

「さらっと1000年前って言ってるが・・・・・・葉狐さん何歳なんだ?」

「私ですか? 大体3000歳くらいでしょうか。妖狐族は長生きですから」

「3000歳って・・・・・・それ長生きってレベルじゃねえだろ・・・・・・」

「私なんてまだまだ若輩です。白麗様は私より遥かに長生きですので」

 引いたような声を漏らした影人に葉狐はしれっとそう言った。そして、こう言葉を続けたようとした。

「さて、ではヒギツネの案内を――」

 葉狐が白麗から命じられたヒギツネの案内を始めようとする。だが、次の瞬間葉狐の中に声が響いた。

「え、ええ・・・・・・? 今すぐそちらに? でも、ヒギツネを案内するように仰ったのは・・・・・・え、気が変わった? はあー、分かりました・・・・・・」

 葉狐はまるで目には見えない誰かと話している様子だった。そして、最終的には疲れたようにため息を吐いた。影人たちは不思議そうにそんな葉狐を見ていた。

「皆様、いま白麗様から神通力で私の中にお声がけがありました。何でも、ヒギツネの案内は後にして先に皆様と会いたいそうです。あのクソババア・・・・・・いえ、白麗様はかなり気分屋でして。なので、今から白麗様の元までご案内いたしますね。本当にすみません」

 葉狐は一瞬本音を漏らしそうになりながらも、困ったような疲れたような様子で、影人たちにそう言ってきた。

「・・・・・・なんか色々大変そうですね葉狐さんも。取り敢えず、話は分かりました」

「我慢が効かなかったのね。彼女らしいわ」

「なんか、シェルディアに似た感じがするな。その人」

「私もそんな気がしてきましたよ」

「分かりました。では、観光はまた後でですね」

 影人、シェルディア、ゼノ、フェリート、キトナがそれぞれ反応を示す。いずれにしろ、葉狐の話に反対するような者はいなかった。

「では、すみませんがまた先ほど通り骸炎を手配しますね」

 葉狐はそう言うと手を2回叩いた。










「ようこそ皆様。私の後ろに広がっているのが、テアメエルで最も神聖な場所――『神魔しんまの森』でございます」

 数分後。森の中にいた影人たちに対して葉狐がそう言葉を紡いだ。葉狐の背後には明らかに今影人たちがいる森とは違う、深く幽玄な佇まいの森が広がっていた。森の入り口には侵入者を拒むかのように、縄が張られていた。

「この森に白麗がいるの?」

「はい。正確には白麗様の元に至る入り口が存在します。詳しい事はまた後で。どうぞ、私に着いてきてください」

 葉狐が手を森の入り口へと向ける。すると、張られていた縄がほどけた。葉狐は「神魔の森」の中へと入って行った。影人たちも葉狐の後に続く。

「・・・・・・今更ですけど、俺たちここに入っていいんですか? 見るからに禁足地って感じですけど」

「白麗様のお客様ならば問題ありません。それ以外の者は、白麗様の許可がないと入る事は出来ませんが」

 影人が周囲を見渡す。明らかにこの森は何か空気が違う。影人の言葉に葉狐は振り返らずに返答した。

「・・・・・・着きました。入り口です」

 しばらく歩くと、森の中央部と思われる少し開けた場所に出た。そこには古びた小さな祠があった。

「少しお待ちを」

 葉狐は祠に近づきしゃがむと祠を開けた。中は空だった。

「我は祀る。破絶の天狐を。我は願う。破絶の天狐の元へ至る事を」

 葉狐が両手を合わせそう言葉を唱えると、突然周囲の空間が歪んだ。すると、景色が一変し影人たちの前に大きな屋敷が現れた。

「っ・・・・・・」

「まあ・・・・・・」

「へえ・・・・・・」

「これは・・・・・・」

 影人、キトナ、ゼノ、フェリートが驚きを露わにする。しかし、シェルディアだけはその現象を理解していた。

「・・・・・・なるほど。あの祠に特定の言葉を唱えるとこの場所に繋がるという事ね。恐らく、ここは一種の異界・・・・・・ああ、だから入り口と言ったのね」

「左様でございます。白麗様はこの中にいらっしゃいます。さあ、どうぞ中に」

 葉狐はシェルディアの指摘に頷くと屋敷へと歩いて行った。影人たちも当然その後に着いていく。


 ――こうして、影人たちはテアメエルの真の統治者にして、魔なるモノを統べる者の屋敷の中へと足を踏み入れたのだった。

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