第1661話 テアメエル到着、妖狐の案内(2)
「っ!?」
その声のした方に影人が驚いた顔を浮かべながら顔を向ける。影人以外の者たちも似たような表情で、声の聞こえた方に顔を向けた。
すると、そこには1人の女が立っていた。先ほどまではそこにはいなかったはずなのに、ポツンと砂浜にその女は立っていた。
女は一見年若い女に見えた。肩に掛かる艶やかな黒髪が特徴的な美人だ。女は朱色の美しい着物に身を包んでおり、その頭からは狐のような耳が、腰部からは1本のこれまた狐のような尻尾が生えていた。
「っ、獣人・・・・・・? 誰だあんた?」
影人が謎の女に質問を飛ばす。当然の事ながら、影人の声には警戒感が滲んでいた。
「私は葉狐と申す者でございます。我が主人の命により、皆様を案内するようにと仰せつかりました。皆様に害をなす者ではありません」
葉狐と名乗った女は影人たちに深く頭を下げた。そして、顔を上げこう言葉を続けた。
「そして、私は獣人族ではありません。私は魔妖族。その中でも妖孤と呼ばれる種族です。獣人族とは中々見分けがつきにくいとは思いますが」
「・・・・・・つまり、妖狐の葉狐さんってわけか?」
影人が突然に抑えられぬ風洛7バカの血を発揮する。正直、警戒やら何やらをすっ飛ばしてでもアホの前髪はそう言いたかった。影人の言葉を聞いたフェリートなどは露骨に「このアホはこんな状況で何を言っているんだ」的な顔になっていた。
「はい。妖狐の葉狐でございます。正直、何千回めのネタ・・・・・・もとい自己紹介で、もはや様式美のようになっております。正直、私はこの名前をつけた両親の正気を疑っています。何度尻尾を引きちぎってやろうかと恨みで枕を濡らしたか・・・・・・ううっ、思い出したら涙が・・・・・・出ません。イェーイです」
(あ、ヤバい人だ)
泣くフリをした葉狐は無表情で両手をピースの形にした。影人は即座に葉狐にそんな印象を抱いた。
「あなたの事は大体分かったけど・・・・・・いったい誰の命令で私たちを案内するように言われたの? しかも、あなたはまるで私たちの上陸場所が分かっているかのようにこの場に現れた。それはなぜかしら?」
シェルディアが葉狐にジッと目を向ける。シェルディアは質問をしながらも、葉狐の種族を聞いて、内心である程度葉狐の主人が誰なのか見当はつけていた。
「私の主人は破絶の天狐――白麗様にございます。主人からは『そう言えばシェルディアは分かる』と仰せつかっております」
「っ・・・・・・そう、やはり生きていたのね」
葉狐からその名前を聞いたシェルディアがそう言葉を漏らす。それはシェルディアの予想通りの人物だった。
「嬢ちゃん、まさか・・・・・・」
「ええ。先ほど話した彼女の事よ。念のため、船で来て正解だったわ」
シェルディアの反応を見た影人が船の上での話を思い出す。影人の言わんとしている事を察したシェルディアは頷きそう言った。
「? シェルディア、話が見えないんだけど」
「私もです。どうやら、情報の共有が出来ていないようですね」
「破絶の天狐・・・・・・聞いた事のない名前です」
船の上での話を知らないゼノ、フェリート、キトナは不思議そうな或いは不審そうな顔を浮かべていた。




