第1658話 紡いだ絆は嘘ではなくて(4)
「・・・・・・最後にお前と仲直りできて正直本当よかったよ。これで安心して次の目的地に行ける」
ソラから手を離した影人は笑みを浮かべた。影人の言葉を聞いたソラは少し悲しそうな顔になった。
「やっぱり、行くんだね・・・・・・」
「ああ。行かなきゃならないからな。お前が今までみたいに安心して生きられる世界を守るためにも。だから、一旦ここでお別れだ」
影人はソラの言葉に頷くと、ソラにこんな言葉を送った。
「ソラ、最後にこれだけは言っておきたい。確かに、お前は他の翼人族のように目に見える翼はないかもしれない。・・・・・・でもな、お前にも羽は、翼はあるんだぜ。お前の中にな」
「え・・・・・・?」
影人がトンと右の人差し指でソラの胸に触れる。ソラは自分の胸を見下ろし不思議そうな顔を浮かべた。
「誰の中にも目に見えない翼はある。それは未来に向かって、目的に向かって、様々なものに向かって生えている翼だ。お前の中にも必ずある。そして、お前は誰より自由に羽ばたける存在だ。なにせ、お前の名前はソラ。俺たちの上に広がる蒼穹と同じ名前なんだから。だから・・・・・・お前は『羽無し』じゃない」
「っ・・・・・・」
影人のその言葉を聞いたソラが心の底から驚いたような顔を浮かべる。そして、ソラは少し震えながらこう言った。
「俺は・・・・・・『羽無し』じゃないの?」
「ああ、違う。絶対に違う。俺が保証する。お前が『羽無し』だってバカにする奴がいたら、俺がどこからでも駆けつけてぶん殴ってやる」
影人が優しい笑みを浮かべる。その笑みを見たソラは自然と涙が溢れた。
「うん・・・・・・うん・・・・・・! ありがとう、影人兄ちゃん・・・・・・! 俺、俺もう『羽無し』だって言われても怒らないし悲しくならない。俺、強くなるよ。それで、いつか俺が弱っちい影人兄ちゃんを守ってあげる!」
「誰が弱っちいだ。はっ、でも楽しみにしてるぜ」
涙を拭い輝くような笑顔を浮かべるソラに、影人はポンとソラの頭に軽く右手を乗せた。そして、影人は立ち上がった。
「じゃあなソラ。お別れだ。ユニルさんや孤児院のみんなと仲良くな。・・・・・・またな、ソラ」
「うん。またね、影人兄ちゃん」
いつか再会を誓う言葉を2人は交わした。ソラとの別れが済んだ影人たちはソラに背を向け、シザジベルの町の外に出るべく歩き始める。
「あ、待って影人兄ちゃん! 最後に聞きたいんだけど、俺を助けてくれた金色の目をしたお兄さんを知らない? 確か名前は・・・・・・スプリガン。ゼノと知り合いだから、影人兄ちゃんとも知り合いなんでしょ?」
ソラが最後にそんな質問を影人にしてきた。影人は小さな笑みを浮かべると、振り返りこう答えを返した。
「・・・・・・ああ。一応な。でも、あいつは1人が好きだからもう違う所に行ったぜ。でも・・・・・・次俺と会う時はあいつとも会えると思うぜ」
「? そう。じゃあ、気をつけてね!」
その答えを聞いたソラはよく分からないといった顔を一瞬浮かべたが、やがて笑顔で手を振り影人たちを送ってくれた。
――シザジベルで影人が紡いだ絆は嘘ではなかった。こうして、影人たちはシザジベルを後にした。




