第1657話 紡いだ絆は嘘ではなくて(3)
「そう言えば、路銀はまだ大丈夫なのか?」
「ええ。まだ金貨が7枚もありますから。この宿は少し値が張った宿でしたが、それでも10日近く滞在しても金貨1枚と銀貨が少しほどでしたよ」
「マジか。あいつら随分報酬奮発してくれてたんだな」
宿を出ながら影人とフェリートはそんな話をしていた。影人はウリタハナで出会った教会の警備番、ベナとラギの事を思い出し感謝した。
「ああ、来たわね」
「皆さん、こっちです」
影人たちが宿から出ると宿の外にいたシェルディアとキトナが声を掛けてきた。
「ああ、嬢ちゃんキトナさ――」
影人が2人の声が聞こえた方に顔を向ける。だが、影人は言葉を紡ぎ切る事は出来なかった。なぜなら、そこには――
「なっ・・・・・・・・・・・・」
シェルディアとキトナと共に1人の少年がいたからだ。光沢感のあるスカイブルーの髪が特徴的な少年が。
「何でお前が・・・・・・ソラ・・・・・・」
影人がどこか呆然とした様子でその少年の名を、自分が傷つけてしまった少年の名を呟く。そんな影人にソラはこう言葉をかけて来た。
「影人兄ちゃん・・・・・・俺、影人兄ちゃんに言いたい事があるんだ」
ソラは緊張したような顔で一歩、また一歩と影人に近づいてくる。そして、影人にこう言った。
「ごめん。ごめんね、影人兄ちゃん。ひどい事言って。嘘をついてくれてたのは、俺のためだっただよね? 昨日、あれから帰って聞いたんだ。ユニル姉ちゃんに。自分がお願いしたんだって。影人兄ちゃんは本当は最初から『羽無し』じゃないって言おうとしてたって」
「っ・・・・・・」
ソラは泣きそうな顔で影人に謝ってきた。影人は反射的にしゃがみソラと目線を合わせると、何度も首を横に振った。
「違う。違うんだソラ。お前が謝るような事は何もないんだ。悪いのは全部俺だ。確かに、俺はユニルさんに嘘をついてほしいと頼まれた。お前のために。でも、嘘をつくという決断をしたのは俺だ。俺なんだ。俺は嘘をつけばお前が傷つく事になるって分かってた。分かってたのに・・・・・・俺はお前に嘘をついたんだ・・・・・・!」
「影人兄ちゃん・・・・・・」
影人は懺悔するように気づけばそう言葉を吐いていた。そんな影人を見たソラは思わず意外そうな顔になった。ソラは影人のこんな様子を見るのは初めてだったから。
「・・・・・・俺、まだ子供だからよく分からないけど、嘘って悪い事をした時だけにつくものじゃないんだね。優しさからつく嘘もあるんだよね。影人兄ちゃんやユニル姉ちゃんは、俺に優しい嘘をついたんでしょ?」
「ああ・・・・・・だけど、そんなものはお前からしてみれば詭弁だ。俺がお前を傷つけた事実に変わりは――」
「えいっ」
影人がそう言おうとすると、突然ソラが影人に抱きついてきた。
「っ、ソラ・・・・・・?」
「いいよ。許すよ。俺は・・・・・・俺は影人兄ちゃんが大好きだから。ありがとう影人兄ちゃん。俺のために嘘をついてくれて。俺と一緒に遊んでくれて。影人兄ちゃんのおかげで、俺は今までで1番楽しかったよ」
ソラは優しい声で影人に感謝の言葉を口にした。
「っ・・・・こんな俺を、許してくれるのか・・・・・・?」
「うん」
「ありがとう・・・・・・ありがとうな、ソラ」
影人はギュッとソラの背に手を回しソラを抱き返した。影人は彼にしては非常に珍しい事に、泣きそうになっていた。
「やっぱり、ソラを連れて来てよかったわね」
「はい」
「別れは苦手なんだけど・・・・・・うん。こういう別れならいいね」
「全く・・・・・・甘いのか冷酷なのかよく分からない人だ」
ソラを連れて来たシェルディアとキトナは暖かな表情を浮かべ、ゼノとフェリートはそんな感想を漏らした。




