第1656話 紡いだ絆は嘘ではなくて(2)
「・・・・・・よし、後は嬢ちゃんとキトナさんを待つだけだな」
翌日、昼過ぎ。宿の部屋で軽く支度を整えていた影人はポツリとそう呟いた。その呟きを聞いたゼノは影人の方を見ずに、影人にこう言った。
「本当にソラとお別れの挨拶はしなくていいの?」
「・・・・・・ああ。別れは昨日済ませたからな。逆にお前らはよかったのかよ? 嬢ちゃんやキトナさんみたいに孤児院に挨拶しに行かなくて。お前らも案外ソラと仲良かっただろ」
影人はゼノと部屋にいたフェリートに逆にそう聞き返した。シェルディアとキトナの女子組は今影人が言ったように、孤児院にいるソラに別れの挨拶に出かけている。そのため、2人が戻り次第に影人たちはシザジベルを旅立つ予定だった。
「俺、別れの挨拶は苦手なんだよね」
「別に仲良くはありませんよ。ただ無理やり遊ばされただけです」
影人の問いかけにゼノとフェリートはそう答えた。
「それより、早く次の目的地に行きたいですね。あまり言いたくはありませんが、結局今回もフェルフィズを捕える事は出来ませんでしたし。残る霊地はあと2つ。とうとう、半分を越えられた。次でチェックを掛けなければ・・・・・・終わりが見えますよ。私たちの世界とこの世界のね」
「ああ・・・・・・分かってるよ」
続くフェリートの言葉に影人は重々しく頷いた。フェリートの言葉通り、やはり今回もフェルフィズを捕える事は出来なかった。
「あのクソ野郎は必ず見つける。元々許す気はなかったが・・・・・・ソラまで利用したあいつを俺は絶対に許さない」
ギュッと影人は右手を強く握り締める。昨日キトナがソラから聞いたといって聞かせてくれた話によると、ソラを唆しこの霊地を不安定にさせた男はフェルフィズと名乗ったという。フェルフィズはどういうわけか影人とソラの関係を知り、それを利用したのだ。明らかにフェルフィズは影人たちに追われているこの状況を楽しんでいる。真の邪悪だ。
「・・・・・・気持ちは分からなくもないですが、気迫だけで捕らえられる相手ではありませんよ」
「・・・・・・それも分かってるよ」
影人がフェリートの指摘にそう言葉を返した時だった。部屋のドアがノックされた。そして、ドアが開けられこの宿の主人が姿を現した。
「失礼。あんたらのお仲間がお呼びだ。宿の前で待ってるとよ」
「そうですか。分かりました。ありがとうございます」
宿の主人にフェリートがそう言葉を返す。どうやら、シェルディアとキトナが孤児院から戻って来たようだ。宿の主人はそれだけ言うとドアを閉めた。
「さて、では行きますか」
「・・・・・・ああ」
「ん」
フェリート、影人、ゼノの3人は部屋から出て宿の外へと向かった。




