第1655話 紡いだ絆は嘘ではなくて(1)
「・・・・・・ソラ」
セユスを斃しソラが避難している場所に、影人はゼノの案内の元移動した。そこは人気のない路地裏で、ソラと共にキトナもいた。
「影人さん」
「影人兄ちゃん・・・・・・」
キトナとソラが影人の名を呼ぶ。キトナは影人を見てホッとしたような安心した顔を浮かべ、ソラは何とも言えないような顔を浮かべていた。
「・・・・・・悪い。俺はちょっと違う場所に避難しててさ。その様子じゃ大丈夫だったみたいだな」
影人はソラに自分がスプリガンであるという事を告げなかった。別に言う必要も理由もないと思ったからだ。
「え、影人兄ちゃん。俺、俺・・・・・・」
ソラが何かを言おうとする。影人はそんなソラに対して、
「・・・・・・少し、2人で話そうぜソラ」
そう言った。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
影人とソラは元いた場所から少し離れた場所に移動した。影人とソラの間には確かな緊張感があった。
「・・・・・・まずはごめんなソラ。お前の言う通り、俺は本当は『羽無し』じゃない。俺はお前に嘘をついた」
まず口を開いたのは影人だった。影人は正直にソラにそう言うと頭を下げた。
「っ・・・・・・やっぱり、そうなんだね」
「・・・・・・ああ。お前がどうやって俺の嘘を見破ったのかは分からないが、それが事実だ。本当にすまななかった」
ソラが悲しげな顔を浮かべる。影人は再び謝罪の言葉を口にした。
「じゃあ・・・・・・影人兄ちゃんはやっぱり吸血鬼ってやつなの?」
「・・・・・・いいや。それも違うんだ。吸血鬼は嬢ちゃん・・・・シェルディアだけで、俺やゼノやフェリートは違う。吸血鬼は方便だ。信じてもらえらないだろうが・・・・・・俺たちはこことは違う世界から来たんだ」
「え・・・・・・・・・・・・?」
影人の答えを聞いたソラが呆然とした顔になる。影人の答えはソラの理解を超えていた。
「・・・・・・信じてもらおうとは思ってない。だけど、お前にだけは本当の事を言わなきゃならないからな。俺が嘘で傷つけたお前にだけは」
影人は呆然とするソラに対しそう言葉を付け加えた。そして、影人はソラに背を向けた。
「・・・・・・俺たちは明日この町を出る。俺たちの旅の目的のためにな。だから、明日にはお別れだ。お前は俺と口も利きたくないだろうから、先に言っとくぜ。・・・・・・さよならだ、ソラ」
「っ・・・・・・!?」
影人にそう告げられたソラはショックを受けたような顔を浮かべた。影人はソラから顔を背けていたので、ソラがそのような表情になっているとは分からなかった。
「・・・・・・町はもう安全だ。だから、今日はもう孤児院に帰れ。・・・・・・じゃあな」
「あ・・・・・・」
影人はそう言うとソラから離れて行った。ソラは無意識に影人の背に向かって手を伸ばしていたが、その手が届く事はなかった。
「・・・・・・」
それからしばらくの間、ソラはその場から動けなかった。




