第1654話 風天を穿て(5)
「後は微調整だけだな・・・・・・!」
影人は右足で少し軽めにセユスを蹴り飛ばした。そして、門を2つ創造しそれを潜り飛ばされるセユスを追い越すと、両手のハンマーパンチでセユスを真下へと叩き落とした。セユスが落とされた場所はセユスが蘇った場所、シザジベルの中央部だった。
「ここは最初の・・・・・・」
地面に落下しても物理的には肉体を有していないセユスは、地上に立つと周囲を見渡しそう呟いた。
「・・・・・・何で俺がお前をここに戻したか分からないって顔だな。その理由はすぐに分かるぜ」
同じように地上に降り立った影人。影人はセユスが逃げないように、シザジベル中央部を包むように障壁を展開した。そして、影人はその場所にいた自分たち以外の者を確認し、ニヤリと笑った。
「あ、戻って来たんだ。ソラを避難させて戻ってきたら君たちいなかったから、違う場所にでも行ってると思ってた」
「実際さっきまでは違う場所にいた。だが、今回はお前の力がいるって分かったな。お前、俺を援護にしきたんだろ。だったら、力を貸せよ――ゼノ」
「いいよ。俺に出来る事ならね」
影人のその言葉にゼノはぼんやりと笑った。
「さあ、俺が勝つためのピースは揃った。今度こそ、お前はもう終わりだ『風天』のセユス」
影人はセユスにそう言うと、ゼノとセユスを視界内に収め自身に認識させ、力ある言葉を放った。
「『世界』顕現、『影闇の城』」
影人の背後から闇が現れ世界を侵食する。そして、その闇は新たなる世界を構築した。すなわち、帰城影人の本質たるとある城内へと。
「っ、これは・・・・・・」
セユスが変化した風景を見てそう呟く。そんなセユスに影人はこう言った。
「お前はこの閉じた世界から逃げられない。俺を殺さない限りな。そして、この城内でなら俺はお前を殺せる。灯っているお前の魂、それに死の決定を下せばな」
「っ・・・・・・ならば、その前にあなたの命を壊すだけです」
影人にそう言われて仮初の肉体の胸部に白い揺らめきを見たセユスは、影人と影人の隣にいたゼノに向かって荒れ狂う風の奔流と、全てを切り裂く風を放った。
「ああ、言うのを忘れてたが無駄だ。この城内にいる者は全員俺が決定を下さない限りは不死みたいなものだからな」
「本当、反則だよね君のこれ。まあ、俺も元々不死みたいなものだけど」
影人とゼノは風による攻撃を受けても平気な顔を浮かべていた。全てをバラバラに吹き飛ばす風も、全てを切り裂く風も、2人の体を陽炎のように揺らすだけだった。
「っ・・・・・・」
「理不尽だって顔だな。まあ、気持ちは分からなくもない。俺がお前の立場ならそう思うだろうしな。だが、忘れてねえか? 理不尽なのはお前もだぜ」
影人の体が影闇に覆われ始める。そして、影人の姿は完全に影闇の怪人と化した。それは『影闇の城』での城主としての影人の姿だ。
『理不尽が理不尽に対して理不尽を感じる。そういう時が1番スカッとするよな』
「性格悪いね」
『うるせえよ。ったく、締まらねえな』
隣のゼノの言葉に影人が影闇に染まった顔でそう言った。
「くっ、ですがあなたは本気の僕には追いつけない。僕の真の速度は感知すら出来ない。先ほどあなたに追いつかれたのは、単なる情報の不足に過ぎません」
『そうかもな。だが、もはや速さは関係ないんだよ』
セユスの言葉に影人は素直に頷いた。そして、隣にいるゼノにこう言った。
『おいゼノ。「聖女」との戦いの時にやってた敵との空間を縮めるやつ。あれをやってくれ。そのためにわざわざお前を俺の「世界」に取り込んだんだ』
「ああ、空間を壊すやつ? いいよ」
影人にそう言われたゼノはスッとセユスに向けて右手を突き出した。
「っ!」
その仕草に危険を感じたセユスは神速の速度で影闇の城の中を縦横無尽に動き始めた。
「うわ、見えないや。これじゃどの空間を壊したらいいか分からないな」
『じゃあ、これならどうだ?』
影人はゼノに向かって左手を伸ばしある力を付与した。次の瞬間、ゼノの琥珀色の瞳に闇が揺らめいた。
「っ、急に見えるようになった」
『お前の目を闇で強化した。どうだ、これならギリギリ見えるだろ?』
「うん。これなら大丈夫だ」
ゼノは小さく笑うと、空間を壊す『破壊』の力を発動させた。次の瞬間、ゼノたちとセユスの間の空間が壊される。結果、セユスはゼノたちの目と鼻の先の距離にまで移動した。
「っ!?!?」
セユスが訳がわからないといった顔を浮かべる。影人はゼノに感謝の言葉を述べた。
『ありがとよ。これで終わりだ』
そして、影人はセユスの魂に触れ死の決定を下した。
「あ・・・・・・」
影人に死の決定を下されたセユスはその場から消滅した。それを確認した影人は『世界』を解除した。
「終わったね。後はシェルディアとフェリートとの報告待ちかな。でもまあ、結果は暗いだろうけどね」
「・・・・・・だろうな」
影人がゼノの言葉に頷く。フェルフィズを捜してくれている2人には悪いが、恐らく今回もフェルフィズを捕まえる事は出来ないだろう。
「・・・・・・ソラにちゃんと謝らないとな」
そして、自分が傷つけてしまった少年を思い浮かべながら、影人はポツリとそう呟いた。




