第1653話 風天を穿て(4)
「お前からすれば確かにそうだろうな。だが、させねえよ!」
「・・・・・・風の化身たる僕にこれ程近づけるのは流石です。ですが・・・・・・まだ僕の方が速い」
セユスがそう呟くとセユスは超速の速度で影人から離れた。
(っ、まだ速くなるのか!?)
その速度は今の眼が強化された影人を以てしても速いと感じるものだった。ギリギリ目で追えるか否かといったスピードだ。エリレやシイナのスピードとは明らかに違う。流石は風の災厄といった感じだ。
(ちっ、何とか視界内に入れたから『世界』は顕現出来る。だが、顕現してもセユスを捉えきれるかは分からない。それは『終焉』も同じだ)
『影闇の城』は基本的には何者をも殺す最強のジョーカーだが、唯一の弱点はその顕現時間の短さだ。顕現時間目一杯まで逃げられれば、逆に影人が負ける。『終焉』も無敵だが、対象が速すぎれば捕捉は難しい。
(やっぱり今の俺の課題はスピードだな。だが、今はそれどころじゃない。どうすればあいつを捕捉し殺し切れるか。その方法を考えろ)
影人はセユスを追いながら、今自分が持っているカードで、どうすればセユスを滅し切れるかを考えた。今までの経験と記憶を呼び起こして。
(っ、そういえば・・・・・・これしかないな。俺の練度じゃまだそこまでは難しいだろうし・・・・・・あいつと合流するしかない)
その結果、影人は1つの方法を思いついた。これならば速度に関係なく、必ずセユスを斃せる。
「取り敢えず、まずはセユスの奴をシザジベルの方まで何とか戻さねえとな・・・・・・!」
影人は小さく笑みを浮かべると、まずはセユスに再び追いつくために自身の前方に「影速の門」を再び創造した。だが、今回は1枚ではなく2枚だ。影人は2つの門を潜り、もはや星のような速度になった。
「っ、体が・・・・・・だが、追いついたぜッ!」
その速度はスプリガンの強化された肉体を以てしても骨が軋むような速さだった。影人は全身に激しい負荷を感じつつも、セユスに追いつき、いや追い越す事に成功した。
「っ!?」
「『世界端現』。影闇の鎖よ、我が四肢に纏え!」
セユスがその目を見開き驚きを露わにする。影人は自身の手足に影闇の鎖を纏わせると、右の拳でセユスの顔面部分を穿った。結果、セユスは後方に大きく飛ばされた。
「概念である僕を殴ったところで・・・・・・!」
「痛みはないってか。そんなのは百も承知だ。俺の目的はお前を《《運ぶ》》事だ!」
影人は「影速の門」を創造し潜り、飛ぶセユスに反撃または離脱の隙を与えさせずに次は左の前蹴りを叩き込んだ。結果、セユスはまた大きく飛ばされる。
(イヴ! シザジベルはどっちの方角だ!?)
『ああ? 一応、南東の方角だが・・・・・・お前、まさか殴ってそいつをシザジベルまで運ぶ気か?』
(ああ、そうするしかねえだろ! 『終焉』は発動に一瞬ラグがあるしその間に逃げられる。だから、やっぱり俺の考える方法でやるしかない。その第1段階はシザジベルに戻る事だ!)
『脳筋ってレベルじゃねえぞおい。相変わらず発想がイカれてんな。だけどまあ・・・・・・はっ、それでこそお前だ。せいぜい、俺を楽しませろよ』
「応よ・・・・・・!」
最後は肉声で答えながら、影人はセユスを殴り或いは蹴り、そして「影速の門」を創造し、また殴る蹴るという事を繰り返した。もちろん、イヴの教えてくれたように南東に位置を調節して。その結果、
(っ、見えた。シザジベルだ!)
影人は視界内にシザジベルの町を捉えた。




