第1652話 風天を穿て(3)
「――あれが今回の災厄か。見た感じ風の災厄って感じだね」
そして、その場に新たに現れた者がいた。黄色に近い金髪に一部が黒に染まった少年の見た目をした者、ゼノだ。ゼノは空に浮かぶセユスを見てそう呟いた。
「っ、ゼノ!」
「やあソラ、こんにちは。まさか君がここにいるなんてね」
ゼノはソラに軽く挨拶をした。そして、スプリガンに変身している影人にこう聞いた。
「もう言った?」
「・・・・・・いや、まだだ」
ゼノのその言葉の意味は、ソラに正体を告げたのかという意味だった。その言葉の意味を理解していた影人は、否定の言葉を口にした。
「ん、分かった。一応、端的に状況報告するよ。フェリートとシェルディアはフェルフィズ捜索中。キトナは避難済み。俺は君の援護」
「・・・・・・了解だ。取り敢えず、そいつの避難を頼む」
影人はゼノにソラの事を頼んだ。ゼノは影人の頼みを了承し頷いた。
「うん。ソラ、ここは危ないから離れるよ。俺に着いてきて」
「そ、それは分かったけど・・・・・・ゼ、ゼノはこの黒いお兄ちゃんと知り合いなの?」
ソラが差し出されたゼノの手を握り、恐る恐るといった様子の顔を浮かべる。ゼノは再び頷いた。
「そうだよ。大丈夫、安心しなよ。彼は強いから。きっと、君が心を許している人のように」
「?」
ゼノがぼんやりと笑う。ソラはゼノの答えの意味が分からず、不思議そうに首を傾げた。
「さっさと行け」
「分かってるよ。行くよソラ」
影人がセユスに注意を払いながらゼノにそう促す。ゼノはソラの手を引きこの場から離脱した。
「さて・・・・・・じゃあ戦るか。風の災厄。一応聞いとくが、お前の名は?」
「・・・・・・セユス。『風天』のセユスです」
「セユスか。一応、刻んどくぜその名前。そして、悪いな。お前はもう終わりだ」
影人はセユスにそう言うとこう言葉を続けた。
「『世界』顕現、『影闇の――」
影人が文字通り必殺技を発動させようとする。だが、影人が言葉を紡ぎ切る前に、
「・・・・・・いいえ、終わりませんとも」
セユスはフッとその場から姿を消した。
「なっ・・・・・・」
影人がその顔を驚いたものに変える。どういう事だ。影人がそう考えていると、影人の中にイヴの声が響いた。
『バカ、消えたんじゃねえ! 消えたと錯覚した速度で奴が逃げただけだ! 眼の強化をしろ! 奴が逃げた方向は左方向だ!』
「っ、マジかよ・・・・・・! 普通、初手で逃げるかよ・・・・・・! 災厄が聞いて呆れるぜ!」
イヴの言葉を聞いた影人はすぐさま自身の目を闇で強化、加えて身体能力の強化と『加速』の力を発動した。そして、影人は浮遊しイヴの言った方向に飛んで行った。
「っ、いた・・・・・・!」
影人が神速の速度で空中を飛行していると、先の空間にセユスの姿が見えた。セユスはまだ影人が追って来ていると気づいてはいないようだった。
「逃がすかよ・・・・・・!」
影人は自身の前方に「影速の門」を創造した。その門を潜り、爆発的に加速した影人はセユスとの距離を一気に縮めた。
「っ・・・・・・」
セユスがそこでやっと影人に気づく。影人は周囲に「影闇の鎖」を召喚し、それらをセユスへと向かわせた。
「お前らの使命は命の破壊なんだろ? だったら、俺の命も壊してみせろよ! 少なくとも、エリレとシイナは逃げなかったぜ!」
「それはあなたに対する情報がなかったからでしょう。少なくとも、僕は僕に追いつき死なないはずの災厄を2つも滅したあなたとは戦う必要がないと感じただけです」
セユスは3次元的な動きで影闇の鎖を回避した。本来セユスの体に鎖などが触れられるはずがないのだが、相手は概念すら殺す存在だ。何があるか分からない。ゆえに、セユスは回避に徹した。
「それに、この世界にはあなた以外の生命も多数存在する。まずは、そちらを壊す。それが最も効率的です」
セユスは回避しながら風の刃を影人に飛ばして来た。影人はそれらを回避し、セユスへの接近を試みた。




