第1650話 風天を穿て(1)
「っ、ソラいったいどこに・・・・・・!」
時はほんの少しだけ遡る。影人はどこかに走り去っていったソラを捜すために、シザジベルの町を駆け回っていた。
(何で急に嘘がバレたのかは分からない。だけど、俺はソラに謝らなきゃならない。嘘をついていてごめんって。例えあいつに拒否されたとしても。許されないとしても・・・・・・!)
これは分かり切っていた結末だ。嘘は多くの場合いつかはバレる。その上で影人はソラに嘘をついた。そのはずだ。
だから、影人には責任がある。嘘をついた責任が。影人はその責任を果たすためにも、必死でシザジベルの街を走っていた。
そして、そんな時シザジベルの町の中央部から突如として光の柱が立ち昇った。
「っ!? あれは・・・・・・嘘だろ、このタイミングでかよ・・・・・・!」
その光景を見た影人は、感情を処理しきれずその顔を歪めた。その光景が何を示すのか、影人はよく知っているからだ。
「ふざけやがって・・・・・・! やっぱりてめえは最低最悪の神だぜフェルフィズ・・・・・・!」
悪魔的に最悪なタイミングでその事態を引き起こした忌神に、影人はそう毒づかずにはいられなかった。影人は優先事項をソラの捜索から、光の柱。それから出てくるモノの対処に変更せざるを得なかった。影人は、光の柱へと向かって駆け始めた。
「な、何だよこれ・・・・・・」
そして、時は現在に戻る。フェルフィズに言われた場所、シザジベル中央に位置する英雄カルタスの石像の根本。そこにフェルフィズから受け取ったナイフを軽く刺したソラは、次の瞬間にそこから吹き出したように出現した少し緑がかった光の柱を見て、呆然とした顔を浮かべた。
「な、何だ・・・・・・?」
「光の・・・・柱・・・・・・?」
周囲にいたシザジベルの住人たちもソラと同じような顔を浮かべていた。
「・・・・・・」
そして少しの時間が経過すると、その光の柱の中から地面を透過し、ソレは浮上してきた。高密度の大気を圧縮したような透明に近い不思議な体。ソレは男女どちらとも分からない中性的な顔立ちをしていた。髪のような部分は首にかかるくらいで、その目は閉じられていた。そして、ソレの背には特徴的な大きな大気の翼が生じていた。
(なん・・・・だ・・・・あれ・・・・・・分かんない。分かんないけど・・・・・・何か・・・・・・何かとてつもなく危険な気がする・・・・・・)
ソレを見たソラは自然と体が震えていた。それは本能で感じ取った恐怖から来る震えだった。
「・・・・・・」
ソレがスッとその目を開く。その両の目には複雑で美しい紋様が刻まれていた。
「・・・・・・状況を確認。僕が復活した原因、封印されていた霊地の境界が不安定になったから。理解。その他の諸々の情報・・・・・・理解」
目覚めたソレ――かつてこの世界を襲った4つの災厄の1つ、その風の災厄、『風天』のセユスは周囲を見渡すとそう呟いた。




