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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
1649/2051

第1649話 優しい嘘が崩れる時(5)

「はあ、はあ、はあ・・・・・・う、ううっ」

 影人の元から全力で走り去ったソラは、シザジベルの町外れで大きく息を吐いていた。そして、立ち止まり未だに溢れ出る涙を拭った。

「何で、何でさ・・・・・・何で嘘なんか・・・・・・」

 ソラが止まらぬ涙を拭いながらそう言葉を漏らす。昨日まで今まで生きて来た中で1番楽しかった。だが、今日は今まで生きて来た中で最低最悪な気分だ。自分が立っていた地面が崩れていくような感覚をソラは味わっていた。

「――その様子だと、彼が『羽無し』ではないと分かったようですね」

 そして、そんな時にその男は再び現れた。その男は昨日ソラに真実の是非を見抜く球を渡した男だった。

「お兄さんは昨日の・・・・・・」

「こんにちはソラ君。昨日ぶりですね」

 男はニコリと笑みを浮かべるとゆっくりとソラに近づいて来た。

「すみませんが、『真実の石』を返してもらおうと思いまして。一応、大事な物なので」

「ああ、うん・・・・・・はい」

 ソラは男に球を手渡した。ソラから球を返却された男はそれをポーチに仕舞うと小さく笑った。

「ありがとうございます。しかし、ソラ君は辛い思いをしましたね。信頼している人から裏切られるのは本当に辛いですよね」

「うん・・・・・・今までで1番辛いよ」

「可哀想に。彼も罪な人だ。子供に嘘をつくなんて。その嘘の結果に子供を傷つける事は予想できたはずでしょうに」

 男は嘆くような顔でソラに同情を示した。

「ソラ君、これは提案なのですが・・・・・・影人くんに少し意趣返しをしてみませんか? 軽く影人くんを困らせるんですよ。あなたも、影人くんをこのまま許せはしないでしょう?」

「・・・・・・うん」

 ソラは今の自分の抱える絶望と怒りから思わず頷いた。ソラの答えを聞いた男はニヤリと笑みを浮かべこう言った。

「では、これをとある場所に刺して来てくれませんか? それだけでいいですから」

 男がポーチからナイフを取り出す。そのナイフの刀身には複雑で美しい紋様が刻まれていた。

「なにこれ・・・・・・?」

「ちょっとしたイタズラが仕掛けられているナイフですよ。これをとある場所に刺せば、影人くんが困る事になります」

「困る事って・・・・・・?」

「それは刺してのお楽しみ。ですが、被害は全く出ないので安心してください。ほら、私は影人くんと違って嘘つきではなかったでしょう? だから、信じてください」

「・・・・・・うん。分かった」

「ありがとう。では、今からその場所を言いますね」

 ソラは男からナイフを受け取り頷いた。男はソラに感謝すると座標を教えた。

「では、私はこれで。さようなら、ソラ君」

「あ、待ってお兄さん。お兄さんは何て言う名前なの?」

 立ち去ろうとする男にソラがそう問いかける。男は「ああ、そういえばまだ名乗っていませんでしたね」と言って、自分の名前をソラに教えた。


「私の名前はフェルフィズ。ただのしがない物作り屋です。影人くんに私の名前を言えば、すぐにピンとくると思いますよ」


 ――そして、それからしばらくして、シザジベルの中央部から光の柱が立ち昇った。

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