第1641話 ソラとの日々(1)
「――じゃ、悪いがちょっくら出てくる。日が沈む前までには戻る」
影人たちがシザジベルに来て2日目。近くの食堂で昼食を食べ外に出た影人は、シェルディアやキトナ、フェリートやゼノたちにそう告げた。
「昨日の夜に話してくれたソラって子の所に行くの?」
シェルディアが影人にそう聞く。シェルディアの言葉通り、影人は昨日ソラと出会った事を話した。そして、「羽無し」が何であるのか、町の人々がどうして影人たちに怯えていたのかなどの情報も分かったため、影人はその事もシェルディアたちに話していた。
「ああ。昨日約束しちまったからさ。もし何かあったら、悪いが誰か呼びに来てくれ。俺は町の西外れの孤児院にいる。逆に、こっちからみんなに伝えるような事があれば、俺から宿に行くから」
「分かったわ。じゃあまた後で」
影人はシェルディアたちと別れ孤児院を目指した。
「嬢ちゃんたちも普通に町には出てるし、いずれソラやあのベゾトって子が嬢ちゃんたちに気づいてもおかしくないな。嬢ちゃんたちは普通に吸血鬼って答えてるだろうし、その辺りの整合性の取れた嘘も考えとかねえと・・・・・・」
ぶつぶつと癖である独り言を呟きながら影人がそんな事を考えていると、孤児院に着いた。ただでさえ一見「羽無し」で、前髪が顔の上半分を覆うほどに長く、加えて独り言を言っているので、シザジベルの人々は震え上がったような顔を浮かべていた。
「すいません、影人ですが――」
影人が孤児院のドアをノックし言葉を紡ごうとすると、突然ドアが開けられ中からソラが飛び出して来た。ソラはかなり勢いづいていたのか、影人の体にタックルするように抱きついて来た。
「遅いよ影人兄ちゃん! 俺ずっと楽しみに待ってたんだから!」
「ぐおっ・・・・・・!? お、おう、それは悪かったな・・・・・・」
キラキラと輝くような顔で影人を見上げて来るソラに、影人は苦笑い気味に笑う。ソラが抱きついて来た衝撃で腹部がけっこうな痛さを訴えているのだが、ここでソラを引き剥がして蹲るわけにもいかないので、影人は我慢した。
「こらソラ。急に抱きつくなんてお行儀が悪いでしょ。すみません影人さん・・・・・・」
「い、いえ大丈夫です」
ソラに続き中から出て来たユニルに影人はそう言った。
「ねえねえ影人兄ちゃん! 早く遊ぼうよ! 何して遊ぶ? 追いかけっこ? イタズラ巡り? それとも町の外に冒険? 何でもいいよ!」
「ソラ! イタズラはしちゃいけないって言ってるでしょ! それに町の外も危ないから遊びにいっちゃいけないって言ったはずよ!」
「べー! ユニル姉ちゃんの小言なんか知らないもんね! ほら、行こ行こ影人兄ちゃん!」
「あ、ちょ・・・・・・」
昨日と同じように、ソラが影人の右手を握り駆け出す。影人はソラに手を引かれ小走りになった。
「もうソラ! 絶対イタズラと町の外はダメだからね! 夕方には帰って来るのよ!」
「はーい!」
慣れているのかユニルは怒ったような呆れたような様子で最後にそう言い、ソラもそう返事をした。
「で、何する影人兄ちゃん? 俺何でもいいよ!」
「そうだな・・・・・・じゃあ、追いかけっこするか。最初は俺が追いかける方やるからソラは逃げる方な。10秒したら追いかけるぜ」
「分かった!」
ソラは笑顔で頷くと影人を置いて走り始めた。影人は10秒数えながら、走るソラの背中を見つめた。
「さて10秒・・・・・・追いかけるか。はっ、追いかけっこなんざ小学校以来だぜ。だがまあ・・・・・・子供には負けないぜ・・・・・・!」
影人はニヤリと大人げない笑みを浮かべると、ソラを追いかけ始めた。




