第164話 実力者たち(5)
「あの2人は面白いな。それでいて、真摯だ」
「気に入ったでしょ? 私もあの2人のこと好きなの。それだけじゃないけど、だから2人にいま実戦形式で稽古をつけてるの。強くなりたいんですって」
『しえら』の帰り道、陽華と明夜と別れたアイティレと風音はそんなことを話していた。普段はクールであまり表情を変えないアイティレも、今日は笑みが多い気がした。
「新人の光導姫たちが、『巫女』と実戦か。そこは少し同情するな」
「あら、それはどういう意味? そうだ、よかったら週末に彼女たちと戦ってあげてくれない? 『提督』の強さを知るいい機会にもなるし、経験にもなると思うから」
「週末か・・・・・善処しよう」
生真面目そうな顔でそう言ったアイティレに、風音は「ありがとう」と微笑む。アイティレが風音のいる高校に留学して以来、彼女との距離は着実に縮まっている気がする。
2人が歩いているてると、前方から1人の男子高校生が歩いてきた。前髪が顔の半分ほどを覆い隠している見た目根暗な感じの高校生だ。
(うわ、前髪長い・・・・・・・あれで前見えてるのかしら)
すれ違う瞬間、その男子高校生が息を呑むような感じがしたが、おそらくアイティレの美貌に驚いたのだろう。アイティレは風音という同性の目から見ても凄まじいほどの美人だ。
「・・・・・・今の男、あれでしっかりと見えているのか? 本国ではあれほど前髪を伸ばした男は見かけなかったが・・・・」
「私もあれくらい長いのは初めてかもしれない。でもあの人、陽華ちゃんと明夜ちゃんと同じ制服着てたから、学校は同じみたいね」
「そうか。どういった理由で髪を伸ばしているのかは知らないが、不思議な男だな」
そしてそこでこの話は終わった。2人は学校の事など様々なことを話しながら帰路へとついた。
「・・・・・・・・まさか、『提督』とすれ違うなんてな」
今すれ違った少女たちをちらりと見て、影人はそう呟いた。たまたま、歩きながらシェルディアに言われた事を考えている最中に提督と出会うとは思わなかった。しかも、制服を着ていた素の提督と。
(まあ、向こうは俺の顔を知らないからな。気づかないのも無理はない。つーか気がつかれたら終わりだし)
影人は提督の顔を知っていたから気づいたが、提督からしてみれば、自分などただすれ違った学生でしかない。リアクションがないのは当然だ。
「・・・・・・留学してるなら、すれ違うことくらいあるか」
偶然にしては出来すぎな気がしないでもないが、そういうこともあるだろう。そう納得して影人は再び歩き始めた。
「・・・・・・・ん? 待てよ・・・・あの制服どっかで――」
何かが引っかかり影人は再び歩みを止めた。どこかで、いや何なら今朝も見た気がする。
「! ああ、そうだ。思い出した。あれ、あいつが着てる制服じゃねえか。つーことは、提督はあいつの高校に留学してるのか」
あの制服は影人の妹の学校と同じ制服だ。また不思議な事もあったものだと、影人は勝手に納得しかけたが、ふといつかのソレイユの言葉が頭に浮かんできた。
――彼女が東京に留学したのは、東京に光導姫と守護者のための学校があるからではないかと思われます。実際、彼女はそこに留学しているようですし
「っ!?」
提督が留学している学校は、東京にある光導姫と守護者のための学校。ということは、影人の妹が通っているのは――
「・・・・・・・・・・まさかな」
きっとたまたまだ。そうに決まっている。いくら光導姫と守護者のための学校といっても、生徒全員がそうであるはずない。一般生徒の方が多いに決まっているはずだ。ましてや、自分の妹が光導姫であるはずなど――
「・・・・・・・・・くだらねえこと考えちまったな」
影人は思考を無理やり切り替え、シェルディアに言われた意味を考え直すことにした。ありえない事を考えるのは時間の無駄だ。
(自分の心と向き合う・・・・・・)
だが、結局答えは出ないままだった。




