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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
1639/2051

第1639話 羽無しの少年(3)

「はい。正直、バカバカしい話です。ソラは確かにいい子とは呼べないかもしれませんが、それは『羽無し』というだけで勝手に恐れられ避けられてきた事の反動のようなものです。子供は敏感です。ソラはずっと孤独を感じて、それに耐えて来ました。自分が寂しさに呑み込まれないように必死に・・・・・・」

 ユニルは怒ったような悔しそうな顔を浮かべ、言葉を吐き出した。

「・・・・・・理解できる気がします。子供の自衛本能としては多分適切な事だと思いますから。でも、ユニルさん。ソラくんが孤独と疎外感の海に引き摺り込まれていないのは、あなたがいるからだと思います」

 影人は前髪の下の目で真っ直ぐにユニルを見据えると、こう言葉を続けた。

「あなたのソラ君に対する目は普通だった。そして、俺が『羽無し』とソラ君に紹介された時にも、あなたの目には怯えや恐れの色がなかった。多分、ソラ君にとってあなただけが『普通』なんです。拠り所があるから、まだ壊れないでいる。少なくとも、俺はそう思います。・・・・・・すみません、さっき会ったばかりの奴がこんな事を言って」

「いえ、ありがとうございます。そんな言葉を掛けてくださって。影人さんはお優しいんですね」

 影人の言葉を聞いたユニルは小さく笑った。

「でも、私は本当の意味では、残念ながらソラには寄り添えていません。ソラに寄り添えるのは、きっとソラと同じ者だけなんです」

「・・・・・・だけど、俺はソラ君と同じじゃありません」

「それは分かっています。・・・・・・影人さん、失礼を承知で言わせて頂きますが・・・・・・1つだけお願いをしてもよろしいでしょうか?」

「お願い・・・・・・? 何ですか?」

「少しの間、ほんの少しだけの間でいいんです。どうか、『羽無し』として振る舞っていただけないでしょうか?」

 そして、ユニルは影人にお願いの内容を口にした。

「っ・・・・・・あなたの思いは分かります。ですがそれは・・・・・・最終的には彼を傷つける事になると思いますよ。子供に優しさからの嘘は難しい。嘘がバレた時、ソラ君の絶望はよりひどいものになる。希望から絶望の落差は恐ろしいものです」

「ええ、分かっています。だけど、それでもソラには笑っていてほしいんです。例え偽りであってもあの子が笑っていてくれるなら・・・・・・」

 ユニルのその言葉はエゴでもあった。その事はユニル自身が1番よく自覚している。その上で、ユニルは影人に嘘をつくようにお願いしているのだ。

「俺は・・・・・・」

 影人が難しい顔で答えを返そうとした時だった。突然、どこからかこんな声が聞こえて来た。

「おーいどこ影人兄ちゃん! ユニル姉ちゃんもー!」

「けっ、本当にお前以外の『羽無し』なんているのかよ。お前の嘘じゃねえだろうなソラ」

「嘘じゃない! ちゃんといるんだよベゾト! おーい影人兄ちゃん、ユニル姉ちゃん!」

 それはソラの声だった。ソラは建物内にいるのだろう。影人とユニルを呼んでいた。

「っ、もう戻ってきて・・・・・・すみません影人さん。今の話はまた後で」

「ええ、分かってます」

 ユニルが困ったような顔を浮かべ、影人は首を縦に振った。そして、ユニルと影人は部屋を出た。

「あ、いたいた! ほら見ろよベゾト。俺の言ってた事本当だっただろ!?」

 ソラは孤児院入り口の玄関ホールのような場所にいた。隣にはソラより少し歳上の黒髪の翼人族の少年がいた。その少年は影人の姿を見ると目を見開いた。

「っ・・・・・・本当に・・・・・・」

「ねえ影人兄ちゃん! 影人兄ちゃんはどこから来たの? やっぱり上の島の方?」

「いや、俺はもっと遠い所から来た。少なくとも、上やこの近くじゃない」

 ソラにそう聞かれた影人は、当たり障りのない答えを返した。

「そうなんだ。確かに、羽がないと上から降りて来るのは難しいもんね」

 うんうんとソラは首を縦に振った。すると、今まで黙っていたソラの隣にいた少年、ベゾトが影人にこんな事を聞いて来た。

「・・・・・・あなたは、本当に翼人族なんですか?」

「っ・・・・・・」

 まさか子供からそんな事を聞かれるとは思っていなかった影人は、思わず軽く息を呑んだ。

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