第1637話 羽無しの少年(1)
「こっちこっち! おーいユニル姉ちゃん! 俺以外にも『羽無し』がいたよ!」
影人の手を引いた「羽無し」の少年ソラは、影人を連れてある建物の敷地に入った。位置的にはシザジベルの町の西のはずれといったような場所だ。その建物はシザジベルの多くの建物とは違い、燻んだような白が特徴の建物だった。
「おい、だから話を聞けって! 俺はお前が言う『羽無し』じゃない。俺は吸血鬼だ」
流れと勢い的にソラについて来てしまった影人は、こちらの世界での方便的な身分を述べた。
「嘘だ。吸血鬼なんて種族聞いた事ないもん。俺には分かる。お兄ちゃんは俺と同じだって!」
だが、ソラは影人の言葉を信じようとはしなかとた。今まで出会った人々は吸血鬼という種族を知っていたので、ソラは年齢的にそういった種族などの知識が乏しいのかもしれない。影人は思わず「参ったな・・・・・・」とぼやいた。
「ソラ? 帰ってきたの?」
影人が左手で軽く頭を抱えていると、建物のドアが開かれ中から1人の女性が出て来た。20代半ば過ぎくらいの若い翼人族の女性だ。栗色の長い髪のおっとりとした雰囲気のその女性はソラの名を呼んだ。
「ユニル姉ちゃん! ほら、見て! 俺以外の『羽無し』の影人! 今日初めて会ったんだ!」
「え・・・・・・ほ、本当ね。羽がないわ。ああ、よかったわねソラ。あなたと同じ方が見つかって」
ユニルと呼ばれた女性は影人の姿を見ると驚いた顔を浮かべた。そして次の瞬間には笑顔を浮かべ、ソラにそう言った。
「うん! 俺ベゾトの奴ら探して来る! いっつも俺は仲間がいないってバカにしてたあいつらをギャフンと言わせてやるんだ!」
「あ、おい! ったく・・・・・・急に連れて来て急に置いていくなよ・・・・・・」
ソラはそう言うと、敷地を出てどこかへと走って行った。影人はソラを呼び止めようとしたが間に合わず、大きくため息を吐いた。
「もうソラったら。いくら嬉しいからってお客様を置いていくなんて・・・・・・すみません。どうぞお入りください。お茶をお出ししますね」
「いえ、俺は・・・・・・分かりました。ではご厚意に甘えさせていただきます」
ユニルの誘いを反射的に断ろうした影人は、しかしその判断を変えた。正直、「羽無し」という言葉の意味も知りたいし、ソラの誤解をユニルを通してなくしたかった。ゆえに、影人はユニルの誘いを受けたのだった。
「では、どうぞ中へ」
「ありがとうございます」
そうして、影人は建物の中へと入っていった。




