第1633話 聖地 シザジベル(1)
「――ここが第3の霊地、シザジベルか」
『火天』のシイナと怪盗団騒ぎがあった第2の霊地ウリタハナ。そのウリタハナでの激動の日の翌日、昼過ぎ。影人たちは新たなる霊地へと来ていた。朝にウリタハナを出発し、いつもの空飛ぶ馬車で移動して来たので昼過ぎについた形だ。普通にウリタハナからシザジベルに来ようとすれば、1週間単位の時間がかかった。
「はい。翼人族国家リィフィルの聖地と呼ばれるような場所です。翼人族の皆さんは基本的に空に浮いている浮島で生活をしているらしいのですが、この場所は特別で、この町の方々は他の種族と同じように地上で生活をしていらっしゃるようです」
「へえ、そうなのか。だから、この辺りは他の所よりも浮いてる島が多いのか・・・・・・」
キトナの説明に頷いた影人は空を見渡した。広がる青空には所々に大小様々な島が浮いている。という事は、あの島々が主に翼人族が住んでいる国という事か。
「あの島ってどういう原理で浮いてるの?」
「島の底部にある浮石という石で浮いているそうです。その石が何個も寄り集まって島を浮かせているのだとか。効力は半永久的なので、よほどの事がなければ浮島は地上には落下しないらしいです」
ゼノの疑問に博識なキトナが説明をした。キトナの説明を受けたゼノは「ふーん」と相槌を打った。
「シェルディアがいた時もあの島はあったの?」
「ええ。これほど浮島がある光景は見なかったけど、あるにはあったわ。それより、そろそろ町の中に入りましょう。宿も取らないといけないし」
ゼノの言葉に頷いたシェルディアはそう言うと、シザジベルの町の中へと入っていった。影人たちがいるのはシザジベルの町の入り口のような場所だ。影人たちもシェルディアの後へと続いた。
「っ・・・・・・これはまた、随分と綺麗な町だな」
シザジベルの町へと入った影人は、その町の景色に思わず息を呑んだ。シザジベルの町は全体的に白い建物で構成されており統一的だった。空に映える青空と相まって、シザジベルの町は一層美しいように思えた。
「どこかローマ的な美しさを感じる町ですね。今まで訪れた町も美しかったですが、ここは洗練されたような美を感じます」
「そうね。素直に綺麗な町だわ。なんだか心地よくなってくるような気分ね」
「うん、いいね。天然すぎず人工的すぎないって感じの綺麗さだ」
「シザジベルの町はその美しさで有名なんです。私も知識でしか知りませんでしたが・・・・・・実物は本当に美しいですね。まさか、私もこの光景を見る事が出来るなんて思ってもいませんでした」
フェリート、シェルディア、ゼノ、キトナもシザジベルの町に対する感想をそれぞれ呟く。全員、シザジベルの町の美しさに感心していた。
「・・・・・・さて、取り敢えず嬢ちゃんが言ってたみたいに、まずは宿を探さないとな。昨日のバイトで金も十分稼げた事だし、いい宿を取ろうぜ」
今朝ウリタハナを出る前に教会に行き、ベナから報酬の金貨10枚を受け取ったので気はかなり楽だ。加えて、ゼノが力比べで獲得した金貨もまだ4枚、釣り銭である銀貨や銅貨もかなりある。影人たちに路銀の心配はしばらくはなかった。
「じゃ、宿の場所聞こうか。ごめん、ちょっといい? 宿の場所を聞きたいんだけど」
ゼノが往来にいた翼人族の青年にそう声を掛ける。
「っ・・・・・・あ、あんたら羽無しか? そこの獣人族以外、何の特徴もないが・・・・・・」
ゼノに声を掛けられた青年は、なぜか怯えたような様子で逆にそう聞き返して来た。羽無しという言葉の意味がよく分からなかったゼノは軽く首を傾げた。
「羽無し? 確かに俺たちに羽はないけど・・・・・・俺たち翼人族じゃないからないのが普通だよ。俺たち、吸血鬼だから」
「吸血鬼・・・・・・? ああ、だから目に見える特徴がないのか・・・・・・悪い。吸血鬼を見るのは初めてだったから、ちょっと勘違いしたよ。それで、宿の場所だったよな。この町には宿が3つある。ええと、1つ目の宿の場所は・・・・・・」
ゼノの答えを聞いた青年はホッと安心したような様子になり、笑みを浮かべた。そして、青年は3つの宿屋の場所をゼノたちに教えてくれた。
「・・・・・・何か変な感じだったな」
青年が去った後、影人はポツリとそう呟いた。
「そうね。最初怯えていたかと思えば、私たちが吸血鬼と聞いた瞬間に普通の様子になった。そして、今気づいたけれど・・・・・・町の住人たちの私たちに対する視線。それも少し変ね。さっきの子と同じように、怯えたようなそんな視線だわ」
シェルディアが軽く周囲を見渡す。すると、今までこっそりシェルディア達を見ていた翼人族たちはサッとその顔を背けた。明確に避けられているような雰囲気だ。
「ふむ・・・・・・キトナさん。翼人族の皆さんは、あまり他種族と関わり合いたくはないような種族なのでしょうか?」
「さあ・・・・・・私も基本は城にいましたし、他種族の方たちとの交流はほとんどありませんでしたから。ですが、翼人族が非友好的と聞いた事はないです」
「そうですか。では、先ほどの『羽無し』という言葉が何らかのキーワードという感じですかね。ニュアンス的には差別用語といった感じですが・・・・・・」
フェリートが思案するように軽く目を閉じる。すると、ゼノが皆に対しこんな言葉を放った。
「取り敢えず、今は考えても分からないよ。誰かから話を聞くとかしないと。それは後にして、まずは宿屋に行こうよ。考えたり誰かに話を聞いたりはその後にでも出来るし。寝床の確保の方が今は重要だ」
「・・・・・・それもそうだな。考えるより先に宿屋に行くか」
影人はその指摘に頷いた。影人以外の者も首を縦に振る。影人たちは教えてもらった宿屋の1つを目指して歩き始めた。




