第1628話 火天復活(4)
「っ、マズイな。火の災厄さんがお目覚めだ。じゃあ嬢ちゃん。そっちは頼んだぜ」
「ええ、任されたわ」
シェルディアの頷きを見た影人は宙に浮かび、シイナの方へと飛んで行った。
「さて、じゃあ私たちはフェルフィズを捜すわよ。フェリート、ゼノ。出来る範囲で逃げる者、怪しい者を探して。キトナは私の側にいなさい」
「了解しました」
「ん、分かったよ」
シェルディアの言葉に頷いたフェリートは宙に浮かび、ゼノは屋根を降りた。
「シェルディアさん、私の事はお気になさらないで大丈夫ですよ。勝手に避難しておきますから。シェルディアさん達が異世界から追って来ている方を捜すのでしょう?」
「っ、正直その申し出はありがたいけど・・・・・・意外ね。災厄が蘇ったというのに冷静そのものね。エリレの時とは大違いだわ」
『地天』のエリレが復活し、シェルディアたちと一緒にいた時、キトナは不安げな様子だった。当然だろう。災厄と呼ばれるモノが蘇ったのだから。だが、今回も災厄が蘇ったというのにキトナはいたって平常だ。その違いがシェルディアには少し不思議だった。
「はい。今は知っていますから。影人さんの強さを。影人さんは地の災厄をその身1つで消し去りました。かつての勇士たちが封印するしかなかった災厄を。私は影人さんがどのようにして、そんな巨大な力を手にしたのかは知りませんが・・・・・・これだけは分かっています。影人さんは力を正しく使える方です」
「へえ・・・・・・なぜそう思うの?」
「だって、影人さんは優しいですから。優しさは心というものを知っているから生まれるものです。だから、私何も怖くないんです。今回も、影人さんが災厄に勝って私たちを守ってくれるって分かっていますから」
キトナは満面の笑みを浮かべた。その笑みは、影人を心から信頼している笑みだった。
「そう・・・・・・キトナ、あなた影人とはまだ付き合いが短いのに、よく影人の事を分かっているわね。慧眼だわ」
キトナの答えを聞いたシェルディアはどこか嬉しそうに笑みを浮かべた。自分の大切な者が誰かに正しく理解されている事が、シェルディアは嬉しかった。
「っ、何あれ。光の柱の中に炎の・・・・・・子供?」
「おい待てよメイ!」
「全くバカメイはすぐ本能で動くんだから・・・・・・!」
シェルディアとキトナが話していると、突然2人がいる屋根の上に怪盗姿の少女、メイとメイを追うライカとニーナが現れた。
「って、おいおい何だよあれ・・・・・・な、何か明らかに・・・・・・」
「危険な感じね・・・・・・」
ライカとニーナも光の柱内のシイナに気がつく。2人は本能で危険を感じ取ったのか、その顔を一瞬で険しいものへと変えた。
「あら、あなた達さっきの怪盗団じゃない。何しに来たの」
「げっ、さっきの女!? お、お前こそ屋根の上なんかで何してんのさ!?」
シェルディアが可憐怪盗団に気付き、ライカもシェルディアに気がつく。先程の事もあり、ライカは顔にシェルディアに対する苦手感のようなものが出ていた。
「別に。どうもしていないわ。じゃあキトナ。私は影人の頼まれ事をするから、少しの間消えるわ。屋根の上から降りたいのなら、ついでに降ろしてあげるけどどうする?」
「あ、大丈夫です。ここけっこう簡単に地上に降りれる造りになってますから」
「そう? なら、怪我にだけは気をつけるのよ」
「おいコラ! 私たちを無視してるんじゃねえ!」
「別に無視はしていないでしょ。単に、もうあなた達に時間を割くリソースがないというだけよ。じゃあね」
吠えるライカにそう言い残し、シェルディアはフッと消えたと錯覚するスピードで屋根の上から去った。
「あ、おい! ったく、何なんだよあいつもこの状況も・・・・・・」
「知らないわよ・・・・・・」
ライカとニーナが訳がわからないといった顔になる。そんな中、メイはキトナに話しかけた。
「あの・・・・・・あなたは何が起きてるのか知っていますか?」
「ええ。実はこの地に封印されていた火の災厄が蘇ってしまったのです。あの光の柱内にいる炎の化身が火の災厄、『火天』のシイナです」
「っ・・・・・・!? それって・・・・・・」
「は? え、は!? ひ、火の災厄???」
「そ、それって古文書に出てくるあの・・・・・・?」
キトナの説明にメイ、ライカ、ニーナはそれぞれ驚愕の反応を示す。どうやら、怪盗団は火の災厄の事を知っているようだとキトナは3人の反応から思った。
「ですが、何も心配はいりませんわ。今宵、火の災厄は滅せられますから。影・・・・・・スプリガンさんの手によって」
「スプリガン・・・・・・」
キトナからその名前を聞いたメイがハッとした顔になる。メイは自然とその視線を光の柱の方へと向けた。そして、メイは気づいた。光の柱の近くの空間に、黒衣に身を包んだ男が夜の闇に溶けるように浮いている事を。それは先程メイたちを一瞬にして無力化した謎の男、スプリガンだった。
「・・・・・・」
いつしか、メイは再びスプリガンに目を奪われていた。
――祭りの夜に光が舞う。災厄を告げるその光に対峙するは黒き妖精。それを見つめるは盗む者か。はたまた――
――盗まれた者か。




