第1627話 火天復活(3)
「っ、出て来やがったか・・・・・・」
影人は広場付近の屋根に辿り着くと、光の柱内にあるモノの姿を見た。
「・・・・・・」
それは一言で言うならば、人の形をした炎だった。エリレのように、中性的な顔立ちに子供のような造形。炎で出来た髪の長さだけはエリレより長く腰ほどある。背には炎の翼があり、その目は閉じられている。
「な、何なんだよありゃ・・・・・・」
「急に地面が光って・・・・・・まさか、あれが魔光様なのか・・・・・・?」
広場にいた者たちは戸惑っている様子だった。見たところ、地面に穴が空いたりはしていない。明確な形がないから地面を透過してきたのか、あるいは物理的な場所ではなく、形而上の世界に封印されていたからか。詳しい事は影人には分からなかった。
「――影人」
影人が広場の様子を観察していると、後ろから自分の名を呼ぶ声が聞こえてきた。影人が振り返ってみると、屋根の上にはシェルディア、フェリート、ゼノ、キトナがいた。キトナはフェリートに抱えられており、屋根の上にゆっくりと下ろされた。
「ありがとうございます、フェリートさん」
「どういたしまして」
屋根の上に降りたキトナがフェリートに礼の言葉を述べる。フェリートは優雅にキトナにお辞儀を返した。
「嬢ちゃん、来てくれたか」
「ええ。教会の外であなたが戻って来るのを待っていたら、光の柱が見えて。影人、この状況はメザミアの時と同じ。つまり・・・・・・」
「ああ。フェルフィズの奴がここの境界を不安定にさせやがった。今にシトュウさんから報告が来るはずだ」
影人がそう言った時だった。ちょうど、影人の中にシトュウの声が響いた。
『――帰城影人』
「シトュウさんか。状況は把握してる。今霊地に封印されてた2つ目の災厄を見てるとこだ」
『そうでしたか。ならば、これ以上は何も。帰城影人、せいぜい頑張ってください』
「・・・・・・意外だな。まさかシトュウさんにそんな言葉を掛けてもらえるなんて。分かった。ありがとよ」
『っ・・・・・・別に深い意味はありません。あまり勘違いをしない事です』
シトュウはどこか不機嫌そうに念話を切った。影人は思わず小さな笑みを浮かべた。
「本当、随分と人間らしくなったよ。あんた」
「えい」
「痛てっ!? きゅ、急になんだよ嬢ちゃん!?」
「別に。何か少しイラッときたから」
軽く小突いてきたシェルディアに影人が訳がわからないといった顔を浮かべる。シェルディアはツンとした様子でそう言っただけだった。
「まあ、冗談はこの辺りにしておきましょう。どうする影人。そろそろ、あの炎の災厄が目覚めるわよ」
「分かってる。嬢ちゃんたちは怪しい奴がいないか探ってくれ。あいつ・・・・・・フェルフィズはまだそう遠くへは逃げてないはずだ。フェルフィズは変装してるから、かなり難しいとは思うが。悪いが頼まれてくれるか?」
「請け負ったわ。じゃあ、今回も災厄の相手はあなたがするのね?」
「ああ。俺が相手するのが1番効率的だからな。・・・・・・そうだ。キトナさん。火の災厄の名前は何て言うんだ? 一応知っときたいんだが」
影人は後方にいたキトナにそう聞いた。キトナは屋根の上から地上を見下ろし、少し楽しげな様子だった。
「え、火の災厄の名前ですか? ええと、確か・・・・・・」
キトナが火の災厄の名前を思い出そうと、右の人差し指を自身の顎に当てる。そして、キトナはその顔を明るいものに変えた。
「ああ、思い出しました! 『火天』、『火天』のシイナ! それが火の災厄の名前です」
「『火天』のシイナ・・・・・・」
キトナから教えてもらった火の災厄の名前。影人がその名前を呟いたと同時に、
「・・・・・・」
災厄はその目を開いた。




