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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
1624/2051

第1624話 解答VS怪人(4)

「なっ・・・・・・!?」

「『閃光』! くっ、この・・・・・・!」

 そのまさかの光景に『閃光』の可憐が驚いた様子になる。一連の光景からシェルディアが危険であると即座に判断した『幻惑』の可憐は、幻惑の魔法を行使しシェルディアを撹乱しようとした。

執事の技能(スキルオブバトラー)が1つ、強化リィンフォース。一応言っておきますが、抵抗するのはお勧めしませんよ。無意味なので」

「っ!? いつの間に・・・・・・」

 だが、その前に身体能力を強化する力を使用したフェリートが『幻惑』の可憐の右手首を掴んだ。フェリートが動いた事に気づかなかった『幻惑』の可憐は結果、魔法を行使する事が出来なかった。

「わ、わわっ・・・・ど、どうしよう・・・・・・!」

「慌てるなよ『衝撃』! やる事は変わらない! お宝を頂いて逃げる! 本気のあたしの速さ見せてやる!」

 『閃光』と『幻惑』の可憐を交互に見つめた『衝撃』の可憐が慌てたような様子になる。そんな『衝撃』の可憐に、『閃光』の可憐はそう叫ぶと自身の全開の速度で縦横無尽に周囲を駆け始めた。

「あら」

「凄い、全然見えません!」

「ははっ、目で追えないだろ! これがあたしの全速力! さあ、今度こそ頂くよ!」

 シェルディアとキトナの反応に『閃光』の可憐が笑う。そして、『閃光』の可憐は再び宝に向かって手を伸ばした。

「あなたには無理よ。だって、あなたそれ程速くないもの」

 シェルディアがつまらなさそうにそう呟く。すると、再びシェルディアの影が伸び『閃光』の可憐の手を弾いたのだった。

「っ!? う、嘘だろ・・・・・・」

「嘘じゃないわ。それが現実よ。私を速度で翻弄したいのなら、最低でも影人クラスでないとね」

 信じられないといった顔を浮かべる『閃光』の可憐。シェルディアは美しい笑みを浮かべ、圧倒的な差を『閃光』の可憐に教えた。

「っ・・・・・・『閃光』、『衝撃』! 作戦を撤退に変更! 3、2、1 ・・・・・・実行!」

「ちっ、仕方ないか・・・・・・!」

「えい!」

 宝を盗む事を不可能と悟った『幻惑』の可憐が即座に撤退を指示する。『閃光』と『衝撃』の可憐は頷くと、懐から白い玉のようなものを取り出し地面に叩きつけた。『幻惑』の可憐も左手で同じ物を取り出し地面に叩き付ける。瞬間、凄まじい白煙が教会内に広がった。

「っ、煙幕ですか・・・・・・」

「きゃっ!?」

「大丈夫よキトナ。何もないから安心しなさい」

「何にも見えないね」

 煙幕を張られた事によりフェリート、キトナ、シェルディア、ゼノはそれぞれの反応を示す。何にせよ煙が晴れるまでは迂闊に動けない。

「鬱陶しいわね。晴れなさいな」

 シェルディアは爪を伸ばし軽く虚空に振るった。爪撃を飛ばすものではなく、あくまで風を起こすためのものだ。結果、シェルディアを中心として凄まじい風が起こる。煙幕は急速に晴れて行く。

「う、嘘!? 煙もう晴れちゃった!?」

「おい『幻惑』! もっと速く!」

「こ、これでも限界なんだけど・・・・・・お、重い・・・・・・」

 煙が晴れると上の方から声が聞こえた。見てみると翼人族である『幻惑』の可憐が『閃光』と『衝撃』の可憐の手を持って空を飛んでいた。

「あら。フェリート、あなたあの子の手を離したのね」

「すみません。いつの間にか。ですが、宝石は無事なので問題はないかと」

 空を飛ぶ3人を見つめながらシェルディアがフェリートにそう言葉をかける。フェリートは特に慌てるでもなくその目をチラリと宝石に向けた。フェリートの言葉通り、宝石は無事だった。その間に、怪盗たちは入って来た天窓に到達し、そこから外へと出ていった。

「まあ、確かに私たちの仕事は宝石を守る事で怪盗を捕まえる事ではないものね。だから・・・・・・ふふっ、後は()()()に任せましょう」

「そうですね。今頃、今か今かと外で待っている事でしょうし。あの怪盗たちの処遇は彼に任せるとしましょう」

 3人を素直に逃したシェルディアとフェリートは少し口角を上げ、そう言った。













「な、何だったんだよあいつら! 結局、お宝は盗めなかったし!」

 教会を脱出した可憐怪盗団は、手首に装着していたワイヤー射出装置を使って屋根の上を伝い逃走していた。『閃光』の可憐は逃げながらそう毒づいた。

「分からないわよ。でも、あのままあそこにいたら危険だったのは事実よ・・・・・・!」

「う、うん。『幻惑』の、ニーナの言う通りだと思う。獣人族の女性以外は何族かは分からなかったけど・・・・・・あの3者は特にマズい気がした」

 『閃光』の可憐の言葉に『幻惑』の可憐と『衝撃』の可憐はそう言葉を返す。2人にそう言われた『閃光』の可憐は少し苛立った声を上げた。

「そんな事は私にも分かってる! でも、初めてお宝を盗むのに失敗した・・・・・・! 弱者が強者から不当に奪われたお宝を盗んで返すのが、私たちの使命なのに・・・・・・!」

「落ち着いてライカ。確かに、あの『ティマの涙」は十何代か前の教皇が寄贈を装って民衆から奪った返却されるべきお宝だけど・・・・・・他にも不当に奪われたお宝はあるわ。『ティマの涙』はほとぼりが冷めたらまた狙いに行きましょう」

「そうだよ。あのお宝は絶対に諦めない。大丈夫。今日は運が悪かったけど、私たちなら絶対に出来るよ!」

「ニーナ、メイ・・・・・・ああ、そうだな!」

 2人の言葉を受けた『閃光』の可憐――本名、ライカは明るい顔で力強く頷いた。『幻惑』の可憐――本名、ニーナと『衝撃』の可憐――本名、メイも明るい顔で頷き返す。

「ええ、そうよ」

「その意気だよライカ!」

 3人が励まし合い空気が明るくなる。怪盗の物語ならば、このまま3人は逃亡しまた違う宝物を狙う。それがお約束のような展開だろう。


「・・・・・・」


 だが、残念というべきか。これは怪盗の物語ではない。青い月が照らす高い屋根の上、3人を見下ろす闇に紛れる金の瞳は彼女らを見つめると、3人の行方を遮るように屋根の上へと降り立った。

「「っ!?」」

「え・・・・・・?」

 自分たちの前に降り立った黒衣に身を包んだ金の瞳の男。その男にライカとニーナは警戒と衝撃が混じった顔を、メイは不思議そうな顔を浮かべた。

「・・・・・・お前らが怪盗か。待ちくたびれたぜ」

 3人に向かってその男――スプリガンに変身した影人は帽子の鍔に軽く右手を掛けながらそう言った。

「あ、あなたは一体・・・・・・」

 スプリガンに目を奪われたメイが思わずそんな言葉を漏らす。その問いかけに影人は答えを、決まり切ったお馴染みの答えを返した。

「・・・・・・俺の名はスプリガン。ただの妖精だ。そして・・・・・・」

 影人はフッと影すら残さぬ速度でメイ、ニーナ、ライカの3人の後ろに移動した。

「お前らを・・・・・・捕らえる者だ」

 次の瞬間、3人の体は闇色の鎖に拘束された。

「「「っ!?」」」

 一瞬にして体を拘束された怪盗たちは、何が起きたのか分からなかった。

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