第1623話 怪盗VS怪人(3)
「っ!? ベナ、ラギ!」
「貴様らよくもッ!」
倒れた2人を見たベナとラギの同僚たちは、警棒のようなものを取り出し『幻惑』と『衝撃』の可憐の方へと襲い掛かった。
「『衝撃』、お願いしますよ」
「分かってる!」
『幻惑』の可憐にそう言われた『衝撃』の可憐は頷くと、襲い掛かって来る2人に向かって右手を突き出した。すると、その前方に小さな魔法陣が出現した。
「何をするかは知らんが喰らえ!」
男が『衝撃』の可憐に向かって棒を振り下ろす。棒は『衝撃』の可憐の左肩口を狙ったが、その前に右手の先の魔法陣が反応し、魔法陣は左の肩口へと移動した。結果、魔法陣に棒が触れた。
しかし、どういうわけか棒が触れた際の衝撃と打撃は全く発生しなかった。
「っ!?」
「どういう理屈かは知らんが、ならばもう一撃!」
その現象に男が意味が分からないといった顔になる。その間に、もう1人の男が『衝撃』の可憐に棒を振るった。
「無駄です! 私にそんな攻撃は効きません!」
だが、結果は先ほどと同じだった。男の振るった棒の先に小さな魔法陣が現れ、まるで衝撃が殺されたように、棒は『衝撃』の可憐に触れただけだった。
「そしてごめんなさい! 衝撃、お返しします!」
『衝撃』の可憐が男2人の胴体部にそれぞれ手を当てる。すると、小さな魔法陣が男たちの胴体部に出現し、そこから不可視の衝撃が放たれた。
「なっ・・・・・・」
「ぐふっ・・・・・・」
強烈な衝撃をモロに受けた2人は、ベナとラギ同様に意識を暗闇へと明け渡してしまった。2人は地面へと崩れ落ちた。
「ふぅ、一丁上がりってね。さて、お宝お宝」
『閃光』の可憐が「ティマの涙」の方へと向かおうとする。すると、再びパチパチと拍手の音が響いた。
「中々に楽しませてもらったわ。見たところ、黄色のマスクのあなたが身体能力の強化、青いマスクの子が幻惑の魔法、そして赤いマスクの子は分かりにくいけど、衝撃を吸収しその衝撃を放つ魔法を使うという感じかしら」
「っ・・・・・・さっきから思ってたが、あんたら何者? しかも、1発で私たちの力を見抜くなんて・・・・・・」
シェルディアの指摘を受けた『閃光』の可憐が、警戒したような目をシェルディアに向ける。特に何をしてくるでもなかったのでそのままにしていたが、自分たちの能力を一瞬で言い当てられた事により、『閃光』の可憐の中でシェルディアたちの警戒度は上がっていた。
「ちょっと『閃光』。何を素直に認めてるの。普通はぐからしたりするでしょ」
「うるさい『幻惑』。なあ、あんた達が何者かは知らないけど、私たちの邪魔をするのはお勧めしないよ。そこに転がってる奴らみたいにはなりたくないだろ?」
「あら、随分と荒っぽいわね。怪盗というより強盗といった感じかしら。スマートさが足りないわ。それより、1つ聞きたいのだけれど、なぜあなた達はこの宝石を狙ったのかしら? ああ、ただの好奇心で深い意味はないから」
シェルディアは小さく笑うと怪盗団にそう質問した。シェルディアの隣にいたキトナも「あ、それは私も気になります!」と手を挙げる。フェリートは全く興味がなさそうな顔を浮かべ、ゼノはぼんやりと『閃光』の可憐を見つめていた。
「私たちがこの宝を狙った理由? そんなものは簡単よ。この宝は――」
「ちょいちょいちょい。脳筋バカ『閃光』、だから素直に教えないでって。私たちが宝を狙う理由はまだ世間に発表してないんだから」
「あ、そっか。というわけで、悪いが理由は教えられない!」
『幻惑』の可憐にそう言われた『閃光』の可憐がビシッとシェルディアに右の人差し指を向けて来る。その言葉を聞いたシェルディアは残念そうに軽くため息を吐いた。
「はあ、そう。だったらいいわ。さっさとお帰りなさい。一応、私たちはこの宝をあなた達から守る事になっているから。だから、あなた達に宝は渡さないわ」
「はっ、言ってくれるね。あんたらが何者かは知らないけど、やれるもんならやってみな!」
『閃光』の可憐はそう言うとシェルディア、ではなく宝の方へと接近した。そして、『閃光』の可憐は「ティマの涙」にその手を伸ばした。
「言ったでしょう。渡さないって」
しかし、『閃光』の可憐の手が宝に届く事はなかった。シェルディアの影が蠢き、その手を弾いたからだ。




