第1621話 怪盗VS怪人(1)
「・・・・・・もうすぐ夜が深くなり始める頃だな。もう少しすれば、鐘の音がなる時刻だぜ」
魔光祭2日目の夜。宝物の一般公開を終え、シンと静まり返った教会内。宝物を守るように立っていたベナが真剣な顔でそう言った。ベナの隣には魔族の大男――ラギもいた。
「そろそろ、怪盗が来てもおかしくはないという事ね。ふふっ、ワクワクするわ。ね、キトナ?」
「はい!」
ベナの呟きを聞きそう言ったのはシェルディアだった。シェルディアは優雅に教会の長椅子に腰掛け、隣に座るキトナに笑いかけた。
「ワクワクって・・・・・・全く、大したタマだぜ。俺らは胃痛で倒れそうだってのにな、ラギ」
「・・・・・・多少緊張はしているが、そこまでではない」
「真面目かよ。別にちょっとした比喩だって。ああ、そういえば、あの前髪の凄い長い吸血鬼さんはどこに? 姿は見えないが・・・・・・」
ラギと言葉を交わしていたベナがシェルディアたちの方に顔を向ける。その質問に答えたのは、シェルディアとは違う長椅子に腰掛けていたフェリートだった。
「彼なら外ですよ。怪盗が逃げた時に捕まえると。別に、私たちの請け負った仕事は宝を守る事であって、怪盗を捕まえる事ではないんですがね・・・・・・そっちの方が格好いいとかよく分からない事を言いだしましてね」
「そ、そうか。案外に積極的なんだな。あの前髪にいちゃん・・・・・・」
フェリートの答えを聞いたベナが頷くと、フェリートの前の長椅子に座っていたゼノが、ジッと宝物を見つめながらこんな事を聞いて来た。
「ねえ、その守ってる宝物ってどんな宝物なの?」
「ん? ああ、こいつか。これは『ティマの涙』って宝石でな。何百年も前から宝物庫にあった由緒あるお宝だ。何でも、十何代か前の教皇様に当時の信徒たちが寄贈したものらしい。その美しい輝きは見た者の心を洗い流すとか何とかってな。今回の一般公開でも、こいつは人気だったよ」
ベナは薄い青の輝きを放つ宝石を見つめながら、ゼノにそう説明した。
「ふーん・・・・・・昔の人たちの思いが詰まった宝石なんだね。だったら、しっかり守らないとな」
「・・・・・・ああ、そうだな。今頃広場の方で教皇様と祈りを捧げてるみんなのためにもな」
ゼノの言葉にベナは小さく笑った。
それから、一同は静かな教会内で怪盗がやって来るのを待ち続けた。一応、入り口には2人ほどベナとラギの同僚が立っているので、そう簡単には教会内に入って来る事は出来ない。そのため、怪盗がやって来れば何かしら兆候がある。少なくとも、ベナはそう考えていた。
――だが、ベナの考えは結果的には間違っていた。
ガシャャャャャャャャャャャャャンと、静寂を引き裂くように派手な音が響いた。同時に、天井から何かキラキラとした物が降ってくる。それは天窓のステンドグラスのガラス片だった。
「「「・・・・・・!」」」
そして、天井から3つの影が降って来る。1つの影はとても身軽な様子で床へと着地し、2つ目の翼を生やした影はその羽ばたきで落下の威力を殺し着地。そして、最後の影は足が地面に着く際に何らかの魔法を使用し、ふわりとまるで落下の衝撃が消えたかのように着地した。




