第1620話 お宝を守れ(4)
「お祭りって凄く楽しいですね! もうワクワクが止まりません!」
影人たちが祭りに沸く町を巡って数時間。太陽もすっかり頂点を回った昼過ぎ。影人たちはカフェの一角で小休憩をしていた。キトナは爽やかな水色のドリンクを飲みながら、ニコニコ顔を浮かべていた。
「うふふ、そう。ならよかったわ。お祭りっていいわよね。私も楽しいわ」
キトナの言葉にシェルディアも同意するように頷く。シェルディアはこの世界の温かなお茶を飲んでいた。
「まあ、こっちの風俗を感じられたのはいいよな。屋台の肉とか他の食べ物も美味かったし。ありがとなゼノ。買い食いしたり、こうしてお茶屋でのんびり出来てるのはあんたのおかげだ」
「? 別に俺大した事してないよ? でもまあ、力になれてるならよかったかな。君の力になるのは、レールとの約束だし」
影人に感謝されたゼノはぼんやりと笑った。そして、ゼノは注文していたキトナと同じドリンクに口をつけた。
「色々と分かった事があったのは収穫ですね。宝物の一般公開をあの教会の中でやっていたという事は、私たちが明日の夜に警備するのはあの場所という事でしょう。まあ、詳しい事は今日の夜に分かるでしょうが」
フェリートが言ったあの教会というのは、この町のシンボルである古い教会だ。普段は見れない宝物を公開するというだけあって、人の数は凄まじかった。
「にしても・・・・・・本当、凄い数の人だよな。どんな道も人が鮨詰め状態だし。町のキャパと来る人の数が合ってないよな」
「・・・・・・先ほどとある魔族のご婦人から聞いた話によると、今回の人の規模は過去最大らしいです。その理由は空失・・・・・・突然人が消える現象を恐れての事だそうです。なので、人々は魔光に助けを縋っていると」
影人の漏らした呟きにそう説明したのはフェリートだった。その説明を聞いた影人は、何かに気づいたような顔を浮かべた。
「っ、突然人が消える・・・・・・フェリート、まさかその空失って現象は・・・・・・」
「・・・・・・察しがいいですね。あなたが考えている通りですよ。あの時のあなたは言葉を理解出来ていなかったので知らないでしょうが・・・・・・一応、キリエリゼでも噂にはなっていました」
「そうか・・・・・・」
その言葉を聞いた影人はどこか申し訳なそうな顔を浮かべた。その現象は間違いなく、フェルフィズが境界を不安定にさせた事によって起きた流入者の問題だ。
「・・・・・・だったら、俺たちがしっかりとケリをつけないとな。あのふざけた野郎を倒して」
「そうですね。それが唯一、私たちに出来る事です」
影人の言葉にフェリートが頷く。2人の会話の意味はシェルディアとゼノにも分かっていたが、2人は敢えて何も言わなかった。
「さて、じゃあそろそろ行きましょうか。まだまだ回れていない所は多いし。せっかくのお祭りなんだから、目一杯に楽しまないと損というものよ」
「そうですね。私、まだまだ元気です!」
数分後。お茶が済んだシェルディアはそう言ってイスから立ち上がった。続いてキトナも立ち上がる。
「本当、元気だな・・・・・・俺は正直けっこう疲れてきたぜ。・・・・・・でもまあ、付き合うよ」
影人も軽く息を吐き立ち上がり、フェリートとゼノも続けて立ち上がった。そして、一行はカフェを後にした。
「――にょわわ!? だ、誰か止めて〜!」
影人たちがカフェを出てしばらく歩いていると、突然そんな声が聞こえてきた。いったい何事だと影人が声のする方に顔を向けると、若い魔族の少女が何か機械のようなものに乗っていた。機械はどういうわけかその場で激しく回転していた。
「あははははっ! 何やってるのさ! 相変わらずポンコツだなメイは!」
「ライカ、笑いすぎ。メイも・・・・ふふ、ふざけてないないんだから」
「そういうニーナも笑ってるじゃん! あーもう! 目が回る〜!」
少女の友人だろうか。獣人族の少女と翼人族の少女が回る少女の近くで笑っていた。どうやら、雰囲気的に何かアトラクションのような物に乗っているようだ。事件かと思ったが、あれならば気にする必要もないだろう。影人は少女たちから興味を失うと、その顔を正面に戻した。
――そして、影人たちは夜まで充分に魔光祭の初日を堪能した。夜になるとベナがやってきて、影人たちはベナから警備に関する詳しい話を聞かされた。そして、時はあっという間に流れ――
――いよいよ、魔光祭2日目の夜を迎えたのだった。




