第1619話 お宝を守れ(3)
「ふぁ〜あ・・・・ん? 何か外が騒がしいな・・・・・・ああ、そうか。確か今日から祭りだったな」
翌日の朝。個室のベッドで目を覚ました影人は起き上がり窓の外を見ると、思い出したようにそう呟いた。そして、影人は個室を出て1階の居間の方へと向かった。言い忘れていたが、この建物は2階建てで2階部分に部屋が6部屋、1階部分に部屋が4部屋ある。その全ての部屋がベッド付きだ。そのため影人たちは男が2階、女が1階とし、それぞれ個室で寝るという方法を取った。
「おはようさん」
影人が居間に行くと、影人以外の者たちは既に全員いた。シェルディア、キトナ、ゼノはそれぞれ影人に朝の挨拶を返して来た。
「おはよう影人」
「あ、おはようございます影人さん」
「ん、おはよう」
「全く遅いですよ帰城影人。さっさと洗面所で顔を洗ってきなさい。ここは魔法で水が出るタイプの家らしいですから。朝食はさっき市場に行って仕入れてきたので、もうすぐです」
「お、おう。ありがとな」
いつの間にか台所で鍋を振っていたフェリートにそう言われた影人は、若干戸惑ったように頷く。流石は執事というべきか、フェリートは生活力の化身だった。
それから、影人たちはフェリートが作った朝食を食べた。メニューはこの世界風のベーコンエッグとパン、後は野菜がたくさん入った具沢山の薄味スープで、どれも絶品だった。影人はフェリートが一緒に異世界に来てくれた事、またフェリートを同行させてくれたレイゼロールに、心の内で何度目かの感謝をした。
「で、今日はどうするんだ? あのベナって人が来るのは夜だし、それまで時間はあるが。祭りの見学でもするか?」
「当然よ。せっかくだから、お祭りを楽しみましょう。幸い、お金も充分にあるしまだ増える予定だし」
食後、影人が居間にいる者たちにそう確認を取ると、シェルディアが1番にそんな反応を示した。
「私も出来ればお祭りに行きたいです」
「どうせ暇だしね」
「まあ、いいんじゃないですか。どうせ、変装しているフェルフィズを探す事は出来ず、私たちは変わらず待ちの姿勢しか取れませんからね」
キトナ、ゼノ、フェリートもそのような意見だったので、影人たちは祭りに行く事が決まった。
「うおっ、凄え人の数だな・・・・・・」
支度をして表通りに出た影人たちは、凄まじい数の人々(厳密には彼・彼女らは人間ではないので表現としては適切ではないが)を目撃した。魔族は当然ながら、獣人族や翼人族、蜥蜴族などの姿も多く見える。様々な種族がいる光景は、まるでキリエリゼのようだ。
「これは逸れないように気をつけないとね。というわけだから影人、私と手を繋ぎましょう」
「嬢ちゃん逸れるようなタマじゃねえだろ。今日はダメだ」
「もうケチね。まあいいわ。だったら、キトナと手を繋いであげて。キトナはこういう人混みは慣れていないだろうから」
「あー、確かにな・・・・・・それは分かった。キトナさん、悪いが俺と手握ってくれるか? 俺なんかと手を繋ぐの嫌だろうが・・・・・・」
シェルディアにそう促された影人がキトナに言葉をかける。キトナは嬉し恥ずかしという感じの笑顔を浮かべた。
「全然嫌ではないです。だって影人さんですもの。むしろ、嬉しいです。うふふ、でも殿方と手を繋ぐのは初めてですわ」
「そうか? 悪いな、初めてがこんな男で」
影人はキトナの左手を握った。その様子を見ていたフェリートは、
「・・・・・・分かりませんね。こんな男が女性に人気な理由が」
どこか呆れたような顔で小さくそう呟いた。




