第1617話 お宝を守れ(1)
「――それで話ってなに?」
広場でゼノが巨躯の男を沈めてから約15分後。ゼノはある建物内にいた。周囲には当然、影人やシェルディア、フェリートやキトナの姿もあり、ゼノは自分たちをこの場所へと連れて来た男――力比べを主宰した中年手前の男にそう言葉を飛ばした。男は賞金をゼノに手渡すと、話がしたいといってゼノたちをこの場所へと案内した。
ちなみに、ゼノが気絶させたあの巨躯の男は、広場のベンチで意識が戻るまで横になっていた。
「ああ・・・・・・ゼノさん。あんたの腕っぷしを見込んで頼みがあるんだ。もちろん、報酬はちゃんと支払う。ただ・・・・・・この話は秘匿性の高い話だ。出来れば、あんたのお仲間には席を外してもらいたいんだが・・・・・・」
「・・・・・・よく分からないけど、腕っぷしが強い人たちを探してるんだよね? だったら、俺の仲間は俺と同じかそれ以上に強いから、話す価値はあると思うよ」
「っ、そうか。そこの獣人族を除いて、他のあんたらも特徴がないから吸血鬼なのか・・・・・・分かった。なら、お仲間の皆さんにも話を聞いてもらおう。ただし、絶対に誰にも話さないって事だけは誓ってくれよ」
男が真剣な表情でそう確認を取る。影人たちは、取り敢えず全員その首を縦に振った。
「・・・・・・感謝する。じゃあまずは自己紹介をさせてもらう。俺は魔光教会の本部で働くベナってもんだ。俺たちは魔光教会の宝物庫なんかを守ったりしてる警備担当みたいな仕事をしてる。さっきゼノさんが気絶させた大男、名前はラギっていうんだが、あいつも同じだ」
「教会で・・・・・・では、あなた達は聖職者ではないですか。聖職者がなぜあんな事をしていたんです?」
「腕の立つ奴をすぐに集めたかったんだよ。まあ、それはこの後の話で分かる」
呆れたような顔を浮かべるフェリートにベナはそう言った。そして、こう言葉を続けた。
「俺たち警備担当は普段はそれほど忙しくないんだが、明日からの魔光祭の時期になると恐ろしいくらいに忙しくなる。なぜって、祭りで表に姿を現す教皇様の護衛だったり、宝物庫に保存されているお宝を一般に公開したりするからだ。俺たちも、本来なら広場であんな事をしている暇なんて全くない」
「だけど、そうせざるを得ない事態が起きた・・・・・・という事ですね」
キトナがそう呟く。ベナはキトナの呟きに頷いた。
「そうなんだよ。今日の朝の事だ。突然、教会に手紙が届いた。そこには、魔光祭2日目の夜に教会の宝の1つを盗むという趣旨の文章が書かれていた」
「っ、予告状か・・・・・・」
ベナの放ったその言葉に、影人は少し驚いた顔を浮かべた。
「へえ・・・・・・」
「まあ・・・・・・」
「ふむ・・・・・・」
「・・・・・・」
シェルディアとキトナは驚いたというよりは面白そうな顔を、フェリートとゼノは特に顔色を変えなかった。
「普通ならただのイタズラって考えるとこなんだが、予告状に書かれてた名前が厄介でな・・・・・・予告状を送って来た奴の名前は『可憐怪盗団』。最近名前を上げてる本物の怪盗どもなんだよ。つまり、予告は本物の可能性が高いってわけだ」
「『可憐怪盗団』・・・・・・えらくふざけた名前だな」
怪盗団の名前を聞いた影人が思わず素直な感想を漏らす。どうでもいいが、可憐と聞くと絶対をつけたい気分の影人だった。
「ああ、俺もそう思う。ただ、名前はふざけてるが、実力は本物みたいだぜ。今まで狙ったお宝は全部盗んでるみたいだからな」
それから、ベナは「可憐怪盗団」に分かっている限りの情報を教えてくれた。構成員は魔族と獣人族と翼人族の3人組で全員若い女。少女と評してもいい若さらしい。ただ、その正体は判明していない。活動範囲は今のところ魔族国家だけで、他の国での被害はないとの事だ。狙う宝の法則性は今のところ分かっていない。
「で、本題はここからなんだが・・・・・・当然、俺たちは怪盗団にお宝をくれてやるわけにはいかない。だが、お宝の一般公開は魔光祭の目玉の1つだ。奴らのために一般公開を中止するなんて事は、現実的に出来ない。そこで、残る方法は1つ・・・・・・」
「怪盗団からお宝を守り抜く、ね」
ベナの言葉の先をシェルディアが答えた。




