第1613話 第2の霊地(2)
「――着きましたよ。第2の霊地、ウリタハナです」
ゼオリアルの王都から出発して約2時間後。御者席にいたフェリートは馬車を地上に下ろすと(周囲に魔族などがいない事は確認済み)、御者席と客車を繋ぐ小窓を開くと客室内にいた影人たちにそんな言葉を告げた。
「あら、もうですか? ゼオリアルの王都からウリタハナまでは普通6日ほど掛かりますから、この空飛ぶ乗り物でももう少し掛かると思っていましたが・・・・・・」
「まあ何の障害もない空路で、速度も前より飛ばしましたからね。キトナさんのおかげで、ウリタハナの位置や目印などは分かっていましたし、時間を出来るだけロスせずに済みました」
客車内からそう聞いて来たキトナにフェリートはそう答えた。キトナは、フェリートにウリタハナの位置がゼオリアルの王都から真東にある事を伝え、古い教会が目印だという事を伝えていた。
「へえ、あれがウリタハナの町か」
外に出た影人は少し離れた場所にある町を見つめた。ウリタハナはゼオリアルの王都のように周囲を壁で囲まれたタイプではなく、キリエリゼのように壁がないタイプの町だった。町の規模はここからでは中々把握しにくいが、けっこうな規模でメザミアより大きく、キリエリゼよりは下といった感じだ。イメージとしては中規模な都会と形容すればいいだろうか。
そして、ウリタハナの町には1つだけ目立つものがあった。それは巨大な古い建物だ。石造りの白が褪せたような色で、その頂には何やら複雑な印が飾られていた。恐らく、あれがフェリートが目印にした古い教会だろう。
「キトナ、ウリタハナとはどんな町なの?」
「ウリタハナは魔族国家フィザシエリの古都のような場所ですね。何でも、魔族の方々はウリタハナが魔族発祥の地だと信じていられるようです。そして、ウリタハナは魔光教の総本山でもあり、あの教会がその象徴になっているらしいです。一説によると、あの教会は1000年以上も前から存在しているとかいないとか」
シェルディアの質問にキトナはスラスラと説明を行った。城で唯一やる事というか趣味だったのは、書庫にある本を読み漁る事だったので、キトナは博識であった。
「フィザシエリ・・・・・・それが魔族の国の名前か。キトナさん、魔光教ってのは何なんだ?」
「ああ、そういえば影人さん達はご存知ないのでしたね。魔光教というのは、多くの魔族の方々に信奉されている宗教です。魔なる光が世界を照らし、そこに住む人々に慈悲を与えるというのが主な教義で、開祖の名前はシジルという方だったと思います」
すっかり説明役になったキトナが影人の問いに答える。シジルという名前を聞いたシェルディアは何か思い当たるような顔を浮かべた。
「シジル・・・・・・聞いた事のある名前ね。確か・・・・・・ああ、思い出したわ。魔族のお調子者の名前ね。口が上手くて話が面白いって、当時風の噂で聞いたわ」
「まあ、シェルディアさんは開祖の方を知っていらっしゃるんですか? 魔光教の開祖が存在したのは、3〜4000年前と言われていますが」
「へえ、そんなに昔なの。だったら、私がいた時代は今から大体4000年前という事なのね。私がいた時代からどれだけ時間が経っているか気になっていたけど、まさかこんな事で知る事が出来るとは思ってなかったわ」
「4000年前! それは凄いですね。シェルディアさんは正に生きる歴史ですわ。よろしければ、また当時の話を聞かせていただけませんか?」
「ふふっ、もちろんいいわよ」
目を輝かせるキトナにシェルディアはニコニコ顔で頷く。そして、影人たちはウリタハナの町へと入ったのだった。




