第1606話 地天を討て(2)
「あの野郎、会ったら絶対また殴り飛ばしてやる・・・・・・嬢ちゃん、フェリート、ゼノ。悪いが、町の人達とキトナさんを頼む。俺はあいつを・・・・・・災厄って奴をどうにかしてくるぜ」
影人は3人に対してそう言った。その言葉を受けた1人であるシェルディアは、その顔を少し厳しいものにした。
「1人で戦うつもりなの影人? 別にあなたが負けるとも思っていないし、その実力も疑ってはいないけど・・・・・・」
「別に嬢ちゃんたちを頼ってないとか焦ってるとか、そんなんじゃないぜ。ただ、今回の場合は住民たちを死なせない事が1番大事だ。それを考えてあいつと戦う事を考えるなら、この人選が1番いいと思ったんだ。俺はどんな状況にも対応できるし、不死殺しの方法も2種類あるからな」
影人は冷静にシェルディアにそう説明を行った。
「・・・・・・なるほど。あなたの言葉は理に適っているわね。分かったわ。そういう事なら、あれはあなたに任せるわ。だけど、あなたの情勢が不利になったら私も戦いに加わるから」
「ああ、悪いがその時は頼むよ。さて・・・・・・じゃあ、俺は俺の役目を果たしてくるぜ」
影人は自分のズボンの右ポケットからペンデュラムを取り出した。そして、力ある言葉を唱えた。
「変身」
ペンデュラムの黒い宝石が黒い輝きを放つ。次の瞬間、影人の姿はスプリガンへと変化していた。緊急事態のため、影人はキトナにその姿を見られる事を厭いはしなかった。
「っ・・・・・・影人さん、その姿は・・・・・・」
初めてスプリガンとしての影人の姿を見たキトナが驚いた表情になる。その糸目も驚きからか開かれていた。
「・・・・・・悪いが説明は後だ。じゃあなキトナさん。せいぜい・・・・・・死ぬなよ」
影人は、変化した金の瞳をチラリとキトナに向けると、その場からフッと影のように消え去った。
「全く・・・・・・彼に命令されるのは癪ですね。まあ、今回は従いますが」
「早く町の方に行ってみんなを保護しなきゃね。キトナ、行くよ」
「は、はい」
影人に町の住人たちを任されたシェルディア、フェリート、ゼノが町の方に向かって歩き始める。キトナも未だに戸惑いながらも、歩き始めた。
(影人さん、あなたはいったい・・・・・・)
キトナは先ほどの姿が変化した影人のことが忘れられずに、その視線を自然とエリレが浮かぶ遺跡の方へと向けた。
「・・・・・・封印が解けたと推定。私が封印されてから経た時の経過は1462年と理解」
周囲の風景を複雑で美しい紋様が刻まれた瞳で見渡したエリレは、自身の置かれた状況を理解しそう呟いた。エリレはその目で情報を読み取ったのだ。
「この区域に複数の生命反応を確認。これより封印により中断されていた行動・・・・・・生命の破壊を開始」
エリレがスッと目を細め行動を開始しようとする。だがその瞬間、エリレの前に1人の男が現れた。
「・・・・・・よう、初めましてだな災厄さん。お前、話をする気はあるか?」
黒衣に身を包んだ金眼の男――スプリガンこと影人はエリレにそう語りかけた。エリレは浮いているので、当然影人も浮きながら。
「っ・・・・・・? 情報が読み取れない・・・・・・疑問を呈します。何者ですか、あなたは?」
エリレの万物の情報を解析する瞳を以てしても、黒衣の男についての情報は何も分からなかった。こんな事は初めてだ。エリレは首を大きく傾げ、影人にそう問うて来た。




